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「シンクロと自由」書評 する側される側が溶け合う先に

評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2022年09月10日
シンクロと自由 (シリーズケアをひらく) 著者:村瀬 孝生 出版社:医学書院 ジャンル:福祉・介護

ISBN: 9784260050517
発売⽇: 2022/07/11
サイズ: 21cm/285p

人としての時と場を失ってしまったのは、認知症のお年寄りではなく我々であるように思えてくる−。老いと向きあう居場所づくりに取り組む著者が、自由と不自由が絡み合ったふしぎな話…

「シンクロと自由」 [著]村瀬孝生

 福岡市に宅老所「よりあい」という高齢者福祉施設がある。本書の著者・村瀬孝生さんは23歳のときに介護職に就き、現在はこの施設の所長を務めるベテランの介護者である。
 
本書ではその彼が長いキャリアのなかで、いまも心に残る入居者との多様なエピソードを描いている。
 食事の介助、排泄(はいせつ)やお風呂の際の出来事など、厄介なのに温かで、どこか不思議な印象を残す場面の数々――。そんななか、「シンクロ」という一風変わったキーワードによって読み解かれていくのが、介護を「する側」と「される側」の関係性が溶け合い、ときにはズレが重なって限界を迎えた先、〈「わたし」は「ふたりのわたし」となり、「わたしたち」が現れる〉といった瞬間だ。
 本書は宅老所「よりあい」での多くの実践が紹介されているものの、その内容はすぐに介護施設の現場で役立つようなものではない、と著者は書く。むしろ描こうとしているのは、その向こう側にある未(いま)だ名付けられていない何か――例えば、「老い」の世界の奥深さであったり、彼らとの交流の中で立ち現れた思わぬ「自由」の感覚だったりする。
 そのような問題意識には、優しい眼差(まなざ)しとは裏腹の鋭さがあった。長年の経験に裏打ちされたリアリズムを土台にしながら、「老い」に向き合う人々の間に生じた不思議な時間の連なりが、これまで見えなかったものを可視化していく、と言えばいいだろうか。
 効率化と急速に流れる社会の時間の中では、「認知症」の症状だけが注目され、見えなくなっている「その人」そのものの世界があるのではないか。
 そう指摘する著者は自らの見た光景や実践を通して、社会では〈混乱〉や〈バグ〉とされるものを丁寧に解し、言語化していく。その様子に繰り返し触れるうちに胸に届き始めたのは、人間の老いというものの力強さだった。
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むらせ・たかお 1964年生まれ。福岡市にある宅老所と特養の計3カ所の統括所長。『おしっこの放物線』など。