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「相棒は秋田犬」書評 人と自然界の仲介役にと提案も

評者: 行方史郎 / 朝⽇新聞掲載:2022年10月08日
相棒は秋田犬 現代の縄文犬と共に過ごした3989日 著者:村山二朗 出版社:カンゼン ジャンル:ペット

ISBN: 9784862556622
発売⽇: 2022/09/08
サイズ: 19cm/238p

「相棒は秋田犬」 [著]村山二朗

 生後3カ月で家族に迎え入れ、11歳で生涯を全うするまでの「天鵬(てんほう)号(愛称テン)」の成長と日々の暮らしをつづったドキュメント。秋田犬(いぬ)の魅力が余すことなく描かれる。
 東北マタギの狩猟犬をルーツとする秋田犬は、大きくなるにつれ1日10キロの散歩が必要になるという。まずは散歩コースの開拓と運動量の確保が欠かせない。
 理解力が高くてプライドも高い。主人に忠義は尽くすが頑固でもあり、筋が通っていなければ、言うことを聞かないときもある。
 人には優しくとも、他の犬から売られたけんかは買う。しかも強い。ふだんの温和な表情とは打って変わって時折見せるすさまじい戦闘能力には飼い主ですら戸惑うことがあるようだ。
 頑丈そうにみえても胃腸は弱く、下痢も珍しくはない。祖先のオオカミに近い原始的な犬であればこそ現代の食事は適さないという事情もあるらしい。
 こうした特徴を挙げれば室内で飼う愛玩犬全盛の日本で秋田犬の居場所は見つけにくい。海外での人気が高いというが、どこまで血統の保存に持続可能性があるのかも気にはなる。
 私はかつてボランティアで赴任したアフリカで現地の習慣にならって犬を放し飼いで育てたことがある。夜は番犬として家の警備に当たってもらうのだが、朝バイクで出勤する飼い主を走って見送った後はどこで何をしようが自由だ。散歩で連れ歩きこそしないが、強い絆では結ばれていた。
 秋田犬も大昔はそのように飼われ、人の暮らす里と山を行き来しつつ役目を果たしていたに違いない。
 クマやイノシシ、サルなどによる農作物への被害や人との接触事故が相次ぐ。著者は「あとがき」で、人と自然界の仲介役として秋田犬のような犬の役割があるのではないかと述べる。放し飼いにしなくとも散歩するだけでも人里への侵入防止に役立つというのである。私には一考の価値のある魅力的な提案に思える。
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むらやま・じろう 1968年生まれ。篠笛(しのぶえ)奏者・ミュージシャン・日本犬愛好家。