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加害の歴史にどう向き合うかに答える「戦争と罪責」 安田浩一が薦める新刊文庫3点

安田浩一が薦める文庫この新刊!

  1. 『戦争と罪責』 野田正彰著 岩波現代文庫 1518円
  2. 『オンガクハ、セイジデアル MUSIC IS POLITICS』 ブレイディみかこ著 ちくま文庫 858円
  3. 『民主化する中国 習近平がいま本当に考えていること』 丹羽宇一郎著 講談社文庫 726円

 (1)戦争の罪科が「なかったこと」にされる。そんな風潮が強まるいまだからこそ、著者が聞き取った元日本兵の告白に慄然(りつぜん)とする。中隊長は中国人の農民を縛り付け、初年兵に銃剣で殺すよう命じた。憲兵は「度胸をつける」ために農民を斬首した。拷問も繰り返した。軍医は生体実験に手を染めた。中国大陸におけるそれぞれの体験が、戦場の非道をあぶり出す。彼らはなぜ、残虐行為に手を染めたのか。加害を経て、人々は何と向き合い、戦後をどう生きたのか。そして――私たちは加害の歴史とどう向き合うべきなのか。その回答が本書で示される。

 (2)ぶっ壊れているのは日本だけじゃない。アンチ移民の政党が支持を伸ばし、貧困層が拡大し、おまけに、かつては保守層から目の敵にされていたジョン・ライドン(元セックス・ピストルズのボーカル)が日和(ひよ)りまくる始末。だが、パンク精神あふれる英国をナメちゃいけない。社会を「クソ」と罵(ののし)りながら、逞(たくま)しく生きる人と音楽がある。英国在住の著者が、2015年までの約10年間のロックな日常を伝える。

 (3)日本社会は反中の呪縛にとらわれている――著者はそう訴える。習近平と10回以上も面談したことのある元中国大使。外交の現場で培った中国観は、巷(ちまた)に氾濫(はんらん)する脅威論とは一線を画す。中国は何を考え、どこに進もうとしているのか。覇権主義に対する甘さが気にならなくもないが、日中が反目しあっても何一つ良いことなどない、といった冷静な主張は合点がいく。=朝日新聞2022年10月22日掲載