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BL担当書店員が選ぶ「ドラマチックが止まらない!三角関係なBL」

映画のようなストーリー展開に注目を!(井上將利)

 三角関係と言っても、その関係性にはいろんなパターンがありますよね。今回はとても歪(いびつ)で複雑な関係性を描いた作品、本郷地下さんの「シンデレラリバティ」(新書館)をご紹介します。かなりシリアスで読み手の思考をフル回転させられるようなストーリー進行、ハラハラする展開が、まさに私好みの作品です。

 歪なトライアングルを形成するのは兄・遼一、弟・洋二の兄弟と遼一の元同級生・敦也というキャラクターたち。物語は洋二と敦也が部屋で会話するシーンから始まるのですが、何やら不穏な雰囲気とかみ合わない会話の内容に「なんだ、なんだ?」と思いつつ、洋二の「思い出せ、あの日のこと…」という言葉と共に舞台は3年前に移ります。

 遼一と洋二はお互いを想い合う兄弟、その愛情は家族に向けるものとは違っていて、それ故に自分たちはまともじゃないと考え、互いを理解できる2人だけの世界で生きていました。そんなある日、洋二が大学の友人と訪れたクラブで敦也と出会います。彼は兄・遼一の同級生だと言い、兄弟の秘密を知っていると絡んで来て―――。

 洋二は兄・遼一を慕っていてその存在を心の拠り所にしているのですが、同時に遼一に支配され、洗脳・虐待といった、傍から見ればそれは異常な関係性であることが伺えます。洋二自身にその自覚はありませんが、そこに登場する敦也が、ある意味、読者と同じ目線で兄弟の異常性を俯瞰して見ているキャラクターとなっており、彼の過去も含めて物語の鍵を握っています。

「シンデレラリバティ」(上)より ©本郷地下/新書館

 敦也は洋二を遼一の支配から解き放つため洋二に接近し、時には半ば強引に体を重ねるのですが、最初は恐れの感情が強かった洋二がだんだんと敦也の想いを感じ取っていく様子、また複雑な過去を持つ敦也も洋二に対して特別な感情を抱いていく様が同時進行で描かれていて、とても繊細な感情表現が演出されています。

 靴職人である敦也が自分の作った靴を洋二がおもむろに履いたシーンは敦也の感情が大きく揺れ動くターニングポイントになったように思えます。

 さて、問題は兄の遼一なんですが、これまた「ヤバいお兄ちゃん」でして、前述のとおり、洋二を言葉巧みに支配してきました。洋二の全てを我が物にしようとする怖い人で、雰囲気や言動からも恐ろしい裏の顔が垣間見えるキャラクターです。あるシーンでは帰宅が遅くなった洋二への罰として、用意した食事を目の前でゴミ箱に捨てる場面が衝撃的でした。しかも「拾わせて食うとこ見たかったー」という鬼畜コメント付きで鳥肌が立ちます……。そんな遼一の思惑は謎に包まれていてとにかく不気味なのですが、あえて言うなれば、私はこのキャラクターが結構好きでして、なんというか嫌いになれないんですよね。「ヤバいお兄ちゃん」系が好きなのかな……(笑)。

 さて、物語はこの後さらに混沌を極めていきます。3人の思惑が交差し想像を超える壮絶な結末へと進んでいく中で、読者としては息が詰まりそうになりますが、回想と現在を行き来しながら、最後は全てが繋がって冒頭のシーンに……と、映画さながらのストーリー展開を堪能してください!

感情をぶつけ合って自分の気持ちを知る、思春期の恋(原周平)

 誰かのハッピーエンドは別の誰かにはハッピーじゃない。そんな切ないところも三角関係のドラマチックな要素ですよね。みんな応援したくなる自分としてはちょっと困っちゃうところでもあります(笑)。今回出会った作品はこちら!

 平眞ミツナガさん「きょうもたのしくいきましょう」(Jパブリッシング)

 主人公の佐野は学生生活を毎日平和にソツなく楽しむため、あらゆる場面でヒエラルキーを考えながら自分を安全圏に置こうとする生徒です。男子校で男同士で体の関係を持つことは“彼女ができるまでの遊び”で、友人の夏木とそういうことをするようになったのも、卒業まで快適に過ごすための延長線――。

 そんな自分の立ち位置ばかり気にする彼のことを、真っ向から否定したのは、クラスに溶け込めていない高田でした。いつも一人でいる高田にアドバイスをして恩を売るつもりが、ノリで友達とHするような奴は気持ち悪い、と返り討ちに……。今までうまく立ち回ってきた佐野にとって、高田の反応は予想外で、自分から絡みに行って本音を言い合うようになっていきます。高田と話すうちに素の自分でいられることに気づき、高田のことも意識するようになって……!?

「きょうもたのしくいきましょう」より ©︎平眞ミツナガ/Jパブリッシング

 高田といることで自分で固めに固めたキャラクターから解放されていく佐野、そして2人の関係を察した夏木も本当の想いを匂わせ始め……、こうして夏木→佐野→高田の歪(いびつ)な関係が出来上がってしまい、それぞれの想いや立場が交錯することになりますが、感情をぶつけ合うことで自身の気持ちとも向き合っていく姿が、大人へのステップを踏んでいく多感な高校生ならではの思春期の恋って感じがして、可愛らしくて楽しめました!

 佐野のスタンスに合わせながらいつかは恋人になることを夢見ていた夏木、真っ当な考えを貫きながらも佐野に惹かれつつある高田。3人の関係性をテンポ良く描きながら、少しずつそれぞれの本心が分かっていく心情の描写が丁寧で、この短い期間で佐野と高田がお互いを意識し合うようになっていくのも、なんか分かるかも! 正直、これまで書いてきた感じだと佐野が嫌な奴と思わせてしまいそうですが(笑)、実は素直で予想外のことに対する反応が可愛いところも。価値観は極端で捻くれたところもあるけど、自分が楽しく学校で過ごせるように色々と気にして行動するのは自分の学生時代もあったよな~なんて思い返しつつ、学校という狭い世界の中で生き方を勉強している最中の高校生らしい男子なのかもと感じました。高田も理屈っぽいけど、初めての恋に戸惑うツンデレなところがカワイイので注目です♪ 最終的な決断は、佐野の立場を思い描いていたものから遠ざけてしまったけど、新しい“楽しい”日々が待っていそうです。そして、僕はけっこう夏木のキャラクターが好きでした。時折、佐野に向ける表情や視線は“遊び”を超えたもので(もちろん佐野は気付いてないのですが)、彼もこの気持ちをいつか成就させるために演じるなど一生懸命だったんだな、と思うと切ない……。いつか良い恋に出会えますように!

 どのキャラクターの視点から見るかで感じ方も変わってくるのも、楽しみ方の一つかもしれませんね!