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江利川春雄さん「英語教育論争史」インタビュー 先人の応酬は教訓の宝庫

江利川春雄さん

 記録を残し、検証を重ね、過ちがあれば繰り返さない。すなわち歴史に学ぶ。日本の政治が苦手としてきたことだが、本書を読むと、英語教育をめぐる政策しかりと思う。

 好例が冒頭で取り上げている小学校での英語教育である。2017年の学習指導要領改訂で正式教科とされたが、「早く始めれば良いのか?」は明治期から散々論じられ、試され、つまずいてきた。成果がなければ教師の責任という当時の論調を紹介しつつ、著者は無謀さを旧日本軍のインパール作戦になぞらえている。

 「なのに今また同じことが繰り返されている。なぜ学ばないのか、非常に歯がゆい」。語り口こそ温厚で快活ながら、著者は怒っていた。100年以上にわたる主な英語教育論争を総ざらいさせた原動力だろう。

 訳読か会話か、教養か実用か、全員に必要か。そうした論点ごとに、本書は応酬の歴史を丹念にたどる。高専で機械工学、大学ではまず経済を学んだ。統計化や数値化、議論の積み上げと着地点にこだわる性分は本書にも随所にうかがえる。古くは英文学者の岡倉由三郎から、近年では加藤周一や筑紫哲也まで多彩な人物が登場し、『実用英文典』の大家斎藤秀三郎の変人ぶりやライバルとの確執といった挿話も面白い。

 外国語教育の究極の目的は、多様な民族が平和的な共存関係を築くことにあると著者は考えている。母語である日本語の力が弱ければ英語力もおぼつかないし、学校の授業だけで「使える英語」が身につくはずもない、「『思いつき』のような慢性改革病」で現場は疲弊しきっている――。著者の指摘は英語教育を超えて日本のありようを考えさせる。

 過去の論争を政策立案に生かしてほしいと願うと共に、教育現場は理不尽な要求にもっと声を上げて良いという。歯がゆさはそこにもある。(文・写真 福田宏樹)=朝日新聞2022年10月29日掲載