1. HOME
  2. インタビュー
  3. 著者に会いたい
  4. 加藤朗さん「国際紛争はなぜ起こるか」インタビュー 枠を超え歩む学問と現場

加藤朗さん「国際紛争はなぜ起こるか」インタビュー 枠を超え歩む学問と現場

加藤朗・桜美林大学名誉教授

 紛争や戦争について大学で教え、社会に訴えながら、世界各地の現場を歩いてきた。自分の言論に責任を持ちたいとの思いからだ。内戦下のシリアでは秘密警察に5日間拘束され、拷問される男たちの悲鳴を聞き、傷だらけになった身体を目撃した。アフガニスタンのカブールで滞在したホテルでは、自爆テロの衝撃でガラスがブルブルと震えた。

 現場から見た紛争、という本ではない。極めて抽象的な議論だ。国際政治学の枠を自ら超えて吉田民人氏や西垣通氏らの情報理論に学び、情報、意味、価値と概念を一つずつ定義して積み上げて「ネオ・サイバネティックス紛争理論の構築」を目指した。「学生時代に読んだ吉本隆明の『言語にとって美とはなにか』のような本が書きたかった」

 米ソ冷戦の終結前後から頻発した「低強度紛争」の研究者として知られる。ケネス・ボールディングの『紛争の一般理論』を理論枠組みにして論じた1993年の『現代戦争論』(中公新書)以来、気になっていたことがあった。紛争を主体、争点、手段の要素に還元して分析すると、そのダイナミズムが分からなくなる。そこで本書では、紛争は情報の差異が原因であり、その差異の解消を目的とするコミュニケーションだと唱えた。つまり紛争は情報の相互作用だという。

 なるほどロシアのウクライナ侵攻も両国首脳の世界観や、発する情報が大きな焦点になっている。だが、情報の相互作用は一体どこから暴力となるのか。「切れ目はあまり意識しなかった。暴力には精神的なものもあるし、相互作用が激しくなれば紛争となる」。そう考えるのは、紛争地を訪れながら「戦争と平和は共存している。暴力と非暴力は地続きだ」と実感したことと、深いところでつながっているに違いない。 (文・村山正司 写真・外山俊樹)=朝日新聞2022年11月5日掲載