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「かいけつゾロリ」作者・原ゆたかさん、シリーズ35年でギネス認定 「武器より、おならの方が平和じゃない?」

原ゆたかさん(右)とかいけつゾロリ=篠塚ようこ撮影

悪役に惹かれ主役にしたら…

――この度はギネス世界記録認定、おめでとうございます。

 ありがとうございます。世界には、もっとたくさん出ているシリーズもあるんじゃない? 71巻でいいの? と思いましたが、本当に認定していただいたみたいで、驚きました。

――35年間、年2冊のペースで書き続けるというのは、なかなかできないことだと思います。

 年2冊というのは、ポプラ社の伝統みたいになっちゃってるというか。ゾロリよりも前に、『ズッコケ三人組』シリーズ(作:那須正幹、絵:前川かずお)が、年2冊きっちり出されていて、それが目標のようになっていました。『ズッコケ三人組』には、児童書でもこんなに売れるんだ、みんな読んでくれるんだというところでもすごく刺激を受けて、那須先生が50巻書かれた時に、「50巻は超えてみせるぞ!」って燃えて、いつの間にか超えていたという感じですね。

――「いたずらの王者」を目指して旅を続けているキツネのゾロリ。作品が誕生したのは、絵を担当していた『ほうれんそうマン』シリーズ(作:みづしま志穂、絵:原ゆたか、ポプラ社)がきっかけだそうですね。

 『ほうれんそうマン』で悪役だったゾロリが好きで、ゾロリを主役にしたお話を書くことにしました。悪者に惹かれるというか、「アンパンマン」でもバイキンマンが好きです。正義の味方って、最後にちょっと出てきて、悪者を簡単にやっつけちゃうけど、悪者は、次はどうしようかと企んだり、考えたりして工夫するところに魅力を感じます。もちろん、教育的には、悪いことがうまくいくのは良くないので、悪者を主人公にした上で、そのいたずらを失敗させて、「悪いことをしようとしても、うまくいかないよね」、というお話を書こうと思いました。

 ところが、ファンになると悪いことでも応援したくなるみたいで「銀行強盗がんばってください」などというファンレターが来るようになって、これはまずいんじゃないか? と。それで、悪いことをさせにくくなりました。そこで、たくらんだいたずらが誰かの役に立ったり、誰かの成長を助けたり、反面教師になったりするようなお話に、少しシフトチェンジしました。ちょっとPTAを意識しましたね(笑)

最近は評価も変わってきた

――子どもたちからが絶大な人気を誇る一方で、初期には「下品だ」「くだらない」という大人の声もあったそうですね。

 だいたいの大人は内容を読まずに、おならやおやじギャグばかりが目について、くだらないと思われるのでしょうが、一度、子ども時代の気持ちに立ち返って読んでみてほしいと思います。大人になれば慣れてしまって新鮮に感じないかもしれませんが、おならは、からだのしくみの不思議さを感じることですし、ギャグも初めて出会う言葉遊びです。大人になった保護者の方々も、子どもの頃はおならやおやじギャグで笑っていたはずです。子ども時代にしか感じられない楽しさを、子どもたちにちゃんと体験させてあげてほしいと思っています。

 私は小学生の時、漫画を描いて友だちに見せて回っていました。ライバルも4人くらいいました。描いた漫画をクラスメイトに見せるとみんなは好き勝手な感想や意見を言うから、くやしくなり、次はもっと面白いものを描くぞ! とどんどん工夫して描いていました。今もその頃の気持ちと変わらず、当時の自分やクラスメイトに読みたいと思ってもらえる作品を描こうと思っています。大人目線の物語ではなく、子どもの立場でおもしろい物語を目指しています。児童書作家になるときに、本のきらいな子が読める本を作ろうと決めました。私は幼い頃は読み聞かせもしてもらい本が好きでしたが、その後、大人にハードルの高い本ばかりすすめられて本が嫌いになった時期があったんです。本の楽しさも読む大変さも両方知っているので、本の楽しさを、読めない子に伝えたいと思って書き始めました。

 昔は、ゾロリばっかり読んでると「ゾロリ病だ」なんて言われて、学校に置いてもらえないこともありました。私も山本周五郎ばっかり読んでいた時期がありましたし、村上春樹や赤川次郎とか、誰でもブームがあるわけで、ゾロリだけ悪いということはないと思います。キャラクターは同じでも同じ話はないし、毎回出てくる言葉も変わってくるので、語彙だって増えるでしょう。どんな本も、ためになるかならないかは読者の読み方や置かれている状況で変わるはずです。

 でも、最近は評価も変わってきて、読んでメッセージを感じとってくれる大人も多くなりました。自分が小学生の時に読んでいて好きだった子が大人になって、子どもと一緒に読んでくれているのもうれしいですね。

――35年間で変わったこと、変わらなかったことはありますか?

 武器で戦わないというのは変えていません。私も子どもの頃、月光仮面とか正義の味方が出てくるお話は見ていましたが、今は戦いものがすごく多くなったなと思って。実際に戦争も起こってしまっている今、武器を持って相手をやっつけるお話ばかりしていたら、戦争はなくならないんじゃないかと思います。もうちょっと優しい解決方法とか、話し合いはできないのかという思いです。

 ゾロリが最初にアニメ化された時にも、タイアップでおもちゃを売るのに一番人気があるのは武器だから、ゾロリになにか武器を持たせてくれないかと言われたんだけど、ゾロリに武器を持たせるのはいやだなと思って、おならで飛ばしたり、親父ギャグで凍らせたり、そういう戦術を使うようにしました。それが目立つと、下品だ、みたいな話になってしまいますが、よく考えてみたら、おならのほうが平和じゃない? 臭くて気絶するだけなんだから、武器で戦うよりもいいよね、と思いますね。。

 変わってきたのはページ数。最初は88ページだったのが、今は103ページ。ハリウッド映画も昔は80分、90分だったのが、今は2時間、長いと3時間のものがあるのと同じように、もっともっと面白い話にしよう、あれも入れたい、これも入れたいとかんがえるとページが足りなくなってしまう。私の理想としては、90ページくらいで収められるのがベストですが、楽しんでもらいたくて、盛りだくさんになってしまって、ちょっと長尺になってきてるかなと思います。

ゾロリは失敗しても前に進む

――ゾロリは35年間、冒険の旅を続けていますが、原さんも子どもの頃、冒険が好きでしたか?

 好きでしたね。映画も冒険ものが好きでよく観ていました。昔の映画は、ひとつの大きな山に向かってドラマが進んでいきましたが、スピルバーグ監督の映画くらいから1本の映画の中に山が多くなったような気がします。山を越えたと思ったら、次々にまた大変なことが起こって、最後までずっと目がはなせません。ゾロリの1冊目『かいけつゾロリのドラゴンたいじ』は、「インディ・ジョーンズ」シリーズを参考にしています。やっと逃れられたのに次の罠が待っているようなドキドキ感のある展開を本でもやってみたかったんです。そうすることで、最後までページをめくってもらうことができるんじゃないか、というのが最初の発想でした。

 本というのは、一番面倒くさいエンターテイメントだと思うんです。自分の意思でページをめくらないといけないなんて、世の中にテレビや映画や動画など、自分でなにかしなくても楽しめるものがたくさんある中で、本を読ませるって難しいなと思って。だから、本を読まない子にも読んでもらえる本、立ち読みでも最後まで読みたくなる本を書きたかったんです。山場をたくさん作る以外にも、ページをめくってもらう工夫をいろいろ考えました。

 例えば、ページの終わりを「すると」「そして」「ところが」でしめくくると、次のページまで読んでみようかなと思いますよね。「すると」ってあると、とりあえず「すると」の結果だけは読もう、そして読んでみるとこんどは「ところが」ってなるから、気になって先を読むうちに、気づいたら1冊読めてしまう。本を読まない子には1冊読みきることが達成感にもつながると思っています。他にも、自分が子どものころ好きだったメカの細かい説明や、群衆の中でいろいろな人が話しているシーン、ストーリーで自然に入れられるところには迷路やなぞなぞを入れるなど、読者が飽きないように、いろいろと考えて作っていますね。

 自分が小学生のころに読みたかったもの、楽しかったものを詰め込んで書いているので、私みたいな小学生がいたら読んでくれるだろうと思っていたのですが、そういう子がたくさんいて読んでくれたおかげで、ここまで長く続けてくることができました。でも、大人の本とちがって、子どもの本は常に新しいお客さんを相手にしなくちゃいけない。中学生になると、だいたい読まなくなってしまいますから。だから、いつも「今」をとり入れるようにしています。お話の筋は時代が変わっても楽しんでもらえるものを心がけていますが、細かい部分で今の子が面白いと思うパロディーなど、流行も入れるようにしています。

――本の中に、原さんが登場するのも見どころの一つですね。

 私が子どもの頃、漫画家は作品の中で顔を出していたんですよね。手塚治虫さんや赤塚不二夫さんが出てくるんです。そうすると、ほんとうにこれを描いてる人がいるんだって親近感もわいて面白いなと思っていました。もうひとつ、アルフレッド・ヒッチコック監督の映画は、どの作品にもヒッチコックが出てくるというのを知ってから、作品の中を探すのがすごく楽しくて、本でもそういうことをやりたいという思いもありました。そこで、自分の作品にも自分の顔を出すようにしたんです。

 それに、子どもは同じ本を何度でも読みますよね。だから、何度読んでも新しい気づきがあって楽しんでもらえるように、絵の中にこっそり私だけではなく、いろいろなものを隠すようにもなりました。たとえば、カバーと表紙の絵を少しずつ変えるなどの仕掛けがあります。中には、すごく難しい仕掛けもあるんですが、時々、見つけてくれた子にサイン会で会うこともあります。そういうときは、くやしくなって、「次はもっと難しくするから、君への挑戦だよ」と話しますね。(笑)。

――親子で一緒にゾロリを読んで、いろんな話ができるといいですね。

 親子で同じ本やテレビや映画を見たときには、共感できるところは共感して、もし、嫌だと思う部分があっても、話ができるといいなと思います。おならが嫌だと思うなら「こんなにおならするのいやだな」っていう話もできると思います。会話ができれば、その子が何を面白がっているのかわかるし、何が好きなのか、苦手なのかもわかります。好きなことがわかれば、他の本や映画を薦めることもできますし、その子が将来なりたいものも見えてくるかもしれません。

 子どもたちもいつか大人になったらなにか仕事をしなければなりません。どんな仕事でも大変なことは必ずありますが、好きなことならば乗り越えられると思うんです。子どもたちには、できるだけ将来も幸せになってほしいので、子どものうちにいろいろなものを見て好きなものをみつけて、そこに向かってがんばっていつか好きな仕事についてほしいなと思っています。

 その間には、失敗することもたくさんあると思います。思えば、人生うまくいくことの方が少ないのではないでしょうか。ゾロリも毎回最後には失敗します。でも、決してめげずに、次に進もうとします。そんなゾロリの前向きな姿に、失敗しても大丈夫だと、子どもたちの背中を押してあげたいという思いもこめています。子どもたちが好きなものをみつけたら、保護者の方には子どもたちの力を信じて見守って、応援してあげて、その力を伸ばしてあげてほしいと思います。

 現在公開中の「映画 かいけつゾロリ ラララ♪スターたんじょう」では、自信の持てなかった歌手志望の女の子の才能をみつけたゾロリたちがみんなで協力して大スターへの一歩をふみださせるストーリーを描きました。なにかを始めようとする子へのエールになる映画です。親子で観ていっしょに感想を話し合ってもらえたら嬉しいです。