1. HOME
  2. コラム
  3. マンガ今昔物語
  4. 変わるルッキズムへの向き合い、丁寧に描く とあるアラ子「ブスなんて言わないで」(第135回)

変わるルッキズムへの向き合い、丁寧に描く とあるアラ子「ブスなんて言わないで」(第135回)

 このところ「ルッキズム」(容姿差別)という言葉をよく耳にする。「人間の価値は外見ではない」「他人の容姿をバカにしてはいけない」という意見は確かに正しい。ミスコンが問題視され、お笑いの世界でも「容姿いじり」はタブーになりつつある。女性誌では「モテ」や「愛され」といった男性の目を意識した言葉が消え、「自分のためにオシャレを楽しむ」という考え方に変わってきているという。しかし、いくら規制されてもルッキズムはそう簡単に消え去るものではないだろう。マンガサイト「&Sofa」(講談社)連載中の『ブスなんて言わないで』(とあるアラ子)は、そのルッキズムに真っ向から斬り込んだ話題作だ。

 幼いころから「ブス」と言われて苦しんだ33歳の山井知子は、できるだけ他人と接触せず、顔を見せないようにひっそりと生きてきた。ある日、たまたま手にした雑誌で高校の同級生だった「美人」の白根梨花が「反ルッキズムの美容研究家」として活躍していることを知る。「ブスなんていない」だって? 私を「ブス」だといじめていたくせに! 知子は激しい怒りに震え、梨花を殺そうと彼女のオフィスに乗り込むのだが――。

 いわゆる「ブス」を主人公にした作品というと、1995年に「週刊ヤングサンデー」(小学館)で短期連載された『ななコング』があった。『サイレーン』や『レンアイ漫画家』で知られる山崎紗也夏が「沖さやか」と名乗っていた新人時代の作品だ。女子高生の東条ななこは誰もが認める「ブス」なのだが、なぜか本人は自分を美人と信じて疑わず、女としての自信に満ちあふれている。頭では拒否しても欲望に負けてしまう「男の性」に対する冷笑もこめつつ、ヒロインのキャラクターで笑いを取るストレートなギャグマンガだった。

 一方、『ブスなんて言わないで』に笑いはほとんどない。2巻まで出ている現時点で知子が一度も笑っていないことが象徴的で、軽い絵柄と対照的に重い読後感を常に残す。

 ルッキズムに苦しんでいるのは知子だけではない。「美人」の梨花は中身を見てもらえないことに、イケメンの小坂は身長が160センチないことに悩み、プラスサイズモデルの奈緒美は摂食障害に苦しんだ過去を持ち、自虐ネタで笑いを取っていた芸人のデパ子は己の武器を封じられた。一見恵まれた者もそれぞれ深刻な悩みを抱えている。

「自分を好きになろう」という梨花の前向きなメッセージに対し、「心の奥がズシンと重くなるのはなんでだろう」(知子)、「どんなに自分で自分のこと好きになっても他人から好かれなきゃ意味ねーよな」(小坂)という言葉に共感する人も多いだろう。反ルッキズムが普及する中、女性が「美人」や「ブス」という外見を武器に戦うことは許されないのか? 毎回いろいろ考えさせられる。

 第2巻のラストでは知子の意外な過去が明かされる。先入観を裏切るエピソードに驚いたが、確かに“こういうこと”もあるだろう。そこに登場する「笹井さん」の涙と予定調和を避けたリアリティーが胸を打つ。