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2022年ベストセラーを振り返る 単純明快へ走ると見方を誤る ライター・武田砂鉄さん

  1. 80歳の壁(和田秀樹著 幻冬舎新書)
  2. 人は話し方が9割(永松茂久著 すばる舎)
  3. ジェイソン流お金の増やし方(厚切りジェイソン著 ぴあ)
  4. 20代で得た知見(F著 KADOKAWA)
  5. 同志少女よ、敵を撃て(逢坂冬馬著 早川書房)
  6. メシアの法(大川隆法著 幸福の科学出版)
  7. 898ぴきせいぞろい!ポケモン大図鑑(上・下)(楓拓磨構成 小学館)
  8. 70歳が老化の分かれ道(和田秀樹著 詩想社新書)
  9. 本当の自由を手に入れる お金の大学(両@リベ大学長著 朝日新聞出版)
  10. 私が見た未来 完全版(たつき諒著 飛鳥新社)
  11. TOEIC L&R TEST 出る単特急 金のフレーズ(TEX加藤著 朝日新聞出版)
  12. WORLD SEIKYO vol.3(聖教新聞社)
  13. ネイティブなら12歳までに覚える 80パターンで英語が止まらない!(塚本亮著 高橋書店)
  14. WORLD SEIKYO vol.2(聖教新聞社)
  15. 聖域(コムドット やまと著 KADOKAWA)
  16. パンどろぼう(柴田ケイコ著 KADOKAWA)
  17. マスカレード・ゲーム(東野圭吾著 集英社)
  18. パンどろぼうとなぞのフランスパン(柴田ケイコ著 KADOKAWA)
  19. ドラゴン最強王図鑑(健部伸明監修 なんばきび、七海ルシア・イラスト Gakken) 
  20. だるまさんが(かがくいひろし著 ブロンズ新社)

※2022年ベストセラー(21年11月22日~22年11月21日、日販調べ、総合部門)

 ロシアによるウクライナ侵攻、安倍晋三元首相銃撃事件、止まらない物価高、なかなか終息しない新型コロナウイルスと、ありとあらゆる不安が押し寄せた1年になってしまった。
 そんな中にあって、政治家たちは、暮らしをなんとか守ろうとする私たちとの信頼関係を築こうとはしない。出版業界に生息する人間としては、昨年の東京オリンピック・パラリンピックをめぐる汚職で、出版大手KADOKAWAの会長らが逮捕されるという展開に驚いた。出版のみならず、メディアが、政治や巨大なビジネスの流れに飲み込まれてしまうのか、距離を保ちながら対抗する言葉を持つのか、厳しく問われている。

老後と金の不安 

 毎日のように書店を覗(のぞ)いているが、日に日に増殖していったのが「○歳本」である。これまでも量産されてきた方向性だが、老後への不安が高まったこともあり、より切実な思いを受け止めたのだろう。(1)(8)の2冊がランクインした精神科医による著作は、80歳・70歳向けだけではなく、『60歳からはやりたい放題』『50歳からの「脳のトリセツ」』などとあらゆる世代に向けて用意されている。そもそも、世代ごとに区切って「○歳からは~」と語ること自体が乱暴ではあるのだが、読む側が引き算しながら考えればいいのだろう。(1)の基本的なスタンスは「嫌なことは我慢しない。したいことをする」である。高齢者に不寛容な社会なのだから、「おかしな現実」に対して「もっともっと怒っていい」と繰り返し、不安を抱えながら手に取った読者に向けて、声をあげてほしいと促していく。
 テレビを見ていると、毎日のように「〇〇が○円上がりました」と値上げのニュースが報じられ、それとセットで資産形成や節約術のテクニックが紹介されていた。出版界でも、(3)(9)に代表されるように、お金の本がよく売れた。(3)を読むと、投資のテクニックだけではなく、自動販売機やコンビニではペットボトル飲料を買わないといった、著者がこだわる節約術についてもページが割かれている。
 岸田文雄首相が就任当初掲げた「所得倍増計画」はいつのまにか「資産所得倍増計画」に切り替わったが、自助努力に変換されているのでは、との警戒心を持ちたい。この2冊を上回り、ビジネス書部門のベストセラーで3年連続1位になったのが(2)だが、同部門にランクインしている本のうち、今年刊行されたのはわずか1冊。ロングセラーばかりが売れている。

読書にもコスパ

 若い世代からの支持を集めたのが、(4)(15)。(15)は5人組人気YouTuber・コムドットのメンバーによるエッセイ本。彼らの写真集は写真集部門でも1位となっている。「将来天下を獲(と)る」などと大きなことを言う一方で、「完璧に見える僕にも実は弱点がある」と弱さを見せたりもする。その緩急をコントロールするのが上手なのだろう。幼い頃から読書が好きだったそうで、「読書は、圧倒的にコスパがいい」と言い切る。
 映像作品を倍速で見たり、難しい議題でもシンプルに断言する「論破」が流行(はや)ったりする中にあって、本を読む行為まで、コストパフォーマンスを問う流れから逃れられないのだろうか。ベストセラーの多くは確かに「コスパ」がいい。あらかじめ、結果や主張がはっきりわかる作りの本が求められている。
 本屋大賞を受賞した(5)は、第二次世界大戦下の独ソ戦で狙撃兵となったソ連の少女を描いた小説。著者は、受賞スピーチを「戦争に反対し、平和構築のための努力をします。それは小説を書く上でも、それ以外の場面でも、変わりはありません」と締めくくった。戦争、物価高、元首相銃撃事件に端を発した国葬や宗教2世の議論など、大きな社会問題が浮上する度、書店ではその問題を考えるフェアなどが組まれていた。それらの本をすべて読むことなどできないが、全体像を見渡すことさえ容易ではないとその光景が教えてくれる。単純明快な方向にひた走ると、社会の見方を誤る。目的を果たすだけの読書から、できるだけ距離を取りたい。=朝日新聞2022年12月24日掲載