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夢野久作全集、全8巻が完結 新聞の時事漫画、短歌、川柳…怪奇文学以外にも多彩な業績

 『ドグラ・マグラ』などの怪奇小説で名高い夢野久作(1889~1936)の全容に迫る『定本 夢野久作全集』(西原和海、川崎賢子、沢田安史、谷口基編、国書刊行会)が全8巻で完結した。一般に知られていない業績を含めて活動初期から晩年までを網羅した完全版。担当編集者は「今後の久作研究の礎に」と期待する。

 没後80年にあたる2016年に刊行が始まった今回の全集では、60点余りがこれまでの全集や著作集に未収録の新資料だ。その一つが、能楽雑誌「喜多」に掲載された能にまつわる川柳。「小便に立たうとすればシテが出る」など、能の謡を指導する謡曲教授としても活動した久作のユーモアがにじむ。

 久作にはまた、新聞記者や歌人の顔もあった。8巻では、勤め先だった九州日報(現・西日本新聞社)に載った時事漫画や、短歌誌「心の花」に発表した短歌なども収録。1~7巻で扱った小説や童話、随筆などと併せて、多彩な活動を一望できる。

 地元福岡を拠点とし、純文学中心の文壇では周縁と見なされた久作。担当編集者で久作研究者でもある伊藤里和さんは「完全版全集がなかったことで、文学研究の場でも評価されにくかった」と話す。「精神病患者や障害者、路上生活者といった社会的弱者を多く描いた久作は、多様性を重視する今の時代にこそ面白い作家。この全集を新たな始まりとして、多くの読者に届けたい」(田中ゑれ奈)=朝日新聞2022年12月28日掲載