イラストのような物語、物語のようなイラスト。すれ違う誰かの人生のワンシーンとしてありそうな、そんな不思議なお話が並ぶ。イラストを見るとき、そこに描かれている一瞬に登場人物がどうして至ったのか、正しく推理することは難しいけれど、それでもいつまでも想像してしまう。どうしてそんな服なのか、どうしてそんな姿なのか。わかることではないけれど、「見る」という時間は時に理解や推理を飛び越えて、もっと自由な空想の世界に誘ってくれる。
この『まあたらしい一日』のtupera tupera(ツペラ ツペラ)によるイラストも、わかるわけではないけど、何か知っているような、わかるような予感があって、たぶんその「予感」こそが魅力なのだ。答えには辿(たど)り着けないけど、辿り着けない分、自分の見ているものがとてつもない膨大な物語の断片や一瞬であることだけがわかる。それは一緒に収録されているいしいしんじさんの物語にも満ちているものだ。知らない誰かの人生の断片(とても不思議な)を見せてもらった予感がしている。
人生などわからないことの方が大半で、答えなんてあるわけもないものだ。わからなさとは常につきまとっているもので、それは多くの場合不安につながっていくけれど、こうした不思議な作品は、そのわからなさをむしろ魅力的に見せてくれる。短い物語を読んで、絵を見て、直感的に「良い」「好きだ」と思うことができるとき、そこにある「わからなさ」をぴょんと飛び越え、抱きしめられた気がする。そして一緒に自分自身にある「わからなさ」もそのままで愛せた予感がするのです。=朝日新聞2023年1月21日掲載