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「琉球切手を旅する」書評 米軍施政下の激動の歴史映し出す

評者: 稲泉連 / 朝⽇新聞掲載:2023年01月28日
琉球切手を旅する 米軍施政下沖縄の二十七年 著者:与那原恵 出版社:中央公論新社 ジャンル:日本の小説・文学

ISBN: 9784120056055
発売⽇: 2022/12/08
サイズ: 20cm/253p

「琉球切手を旅する」 [著]与那原恵

 なんとも美しく、興味深い切手の数々に目を奪われた。復帰前、米軍施政下の沖縄で259種類が発行された「琉球切手」。沖縄の文化や風土、工芸品が描かれた図柄は、現地の美術家らの手によるものだ。額面はセントで表示され、沖縄と本土の間を行き来した。
 沖縄にルーツを持つ著者は幼い頃、沖縄から届く手紙に貼られたこの切手に、いつも魅了されたという。ただ、本書が描き出すのは、「琉球切手」の歴史だけに留(とど)まらない。著者は「琉球切手」という窓を通して、戦後の占領による沖縄の激動の歴史を映し出していくからだ。
 戦後、郵便が再開された沖縄では、米軍の酸素ボンベがポストに代用された時期もあったという。切手の図柄を考案した美術家たちの群像に重ね合わされる、「島ぐるみ闘争」や復帰運動など、返還に至るまでの沖縄社会の27年間。ときに痛切な激動の戦後史への思いが、淡々とした筆致から伝わってきた。