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「目で覚える 動きの美術解剖学」書評 身体の多様な表情汲み取る知性

評者: 磯野真穂 / 朝⽇新聞掲載:2023年02月04日
目で覚える動きの美術解剖学 著者:ロベルト・オスティ 出版社:パイインターナショナル ジャンル:芸術・アート

ISBN: 9784756255297
発売⽇: 2022/11/24
サイズ: 26cm/352p

「目で覚える 動きの美術解剖学」 [著]ロベルト・オスティ

 ギリシャ彫刻の傑作の一つである神官・ラオコーン。制作時期は、紀元前2~紀元1世紀とされる。ラオコーンの表皮を剝(は)いだと仮定すると、その下から精密な解剖図が現れるという。上腕二頭筋の下にある小さな筋肉「烏口腕筋(うこうわんきん)」まで再現されているのだから驚きだ。
 人体解剖が積極的に行われるのは14~16世紀のルネサンスである。しかし紀元前のギリシャ彫刻家は、それ以前から皮膚下の様相を正確に理解していた。彼らも解剖を行っていたのか? 真実は闇の中だ。
 「解剖」と聞くと、すぐに医学を予想する。しかし、本書を通じ気付いた。解剖は医学だけのためにあらず。走ったり、笑ったり、考えたりする時、身体はそれに合わせた表情をとる。解剖とは、身体の多様な表情を誠実に汲(く)み取るための知性であり、私たちをあっと驚かせる芸術も、その基本の先に生まれるのだ。見ていると絵が上手(うま)くなった気にもなれるお得な図版である。