四季折々の豆知識や偉人の名言が書かれたカレンダーを、トイレに掛けてある家は多いだろう。便座に腰をおろす一時、目の前の言葉にふと心が動く。ひきたよしあき『トイレでハッピーになる366の言葉』も、そんな出会いの宝庫かもしれない。
1月1日から始めて、うるう日を含めて366日。5月28日の辰雄忌には堀辰雄の『風立ちぬ』の名ぜりふ。12月25日のクリスマスには「生きている。それだけで、十分よくやった」と、コラムニストの著者自ら語りかける。タイムパフォーマンス重視の10代向けに1ページ15行弱、毎朝のトイレタイムに気軽に読める。
一風変わった「トイレ本」を編集者の白田(はくた)久美さんが思いついたきっかけは、現在中3の息子の反抗期だった。母の言葉を聞き流し、スマホを手にトイレに閉じこもる息子。「誰も入ってこないそこだけが安心できる空間だったのかな」。親が言っても素直に受け取ってもらえそうにない思いを代わりに届けてと、託す気持ちで企画した。
2月4日の言葉は、フェイスブック(現メタ)の創業者マーク・ザッカーバーグの有名な一節。「完璧をめざすよりまず終わらせろ」。シェルターのようなトイレを出て、困難に満ちた外の世界へ踏み出す背中を、ぐっと押してくれそうだ。(田中ゑれ奈)=朝日新聞2023年2月4日掲載