「呪物」と書いて「じゅぶつ」と読む。災いをもたらしたり逆に幸運を招いたりという、何らかのいわくがつき「念がこもっていそうな」物を集めている。呪うは、ネガティブな意味で「のろう」、ポジティブな意味で「まじなう」とも読む。辞書の字義にも沿っている。
幼少期から怪談が好きだった。デザイナーの友人の仕事を手伝う傍ら怖い話を集め、関西テレビ「稲川淳二の怪談グランプリ」で10年前に優勝。各地でトークイベントをするようになった。そんな折たびたび「これ、もらってもらえませんか」と参加者から渡されるようになったのが呪物だ。なかでも滋賀の介護施設の関係者に「可愛がっていた利用者5、6人が次々と死んだ」といういわくつきの人形「チャーミー」=写真=を譲り受けてから、収集にのめり込むように。持ち帰った際に、部屋の電気が点滅し仕事用のパソコンで音声認識機能が延々と起動したという。「偶然やと思うんですけど、こんなことあるんやなと」
以来、直接譲渡のほか、ネットオークション、古物商、世界中のコレクターなどから購入を続ける。漫画の聖地「トキワ荘」をほうふつとさせる築約60年の木造アパートの自室は、壁から床から100点超の呪物であふれかえる。言葉の真の意味で、足の踏み場が無い。
本書では精鋭呪物54点を紹介する。修験者の遺物、鵺(ぬえ)の手、ブードゥー人形、座敷童(ざしきわらし)人形……。本の帯のキャッチコピー「見るだけで障(さわ)る」がまがまがしい。だが、本人のスタンスは淡々。「細かく見ると偶然が結びついた『いわく』かもしれないという冷めた視点も持ってます。霊感もありませんし。だけど、元の持ち主の体験談や言葉は事実として受け止めています」
その独特の間合い。逆に怖い。(文・木村尚貴 写真・小山幸佑)=朝日新聞2023年2月25日掲載