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乃木坂46・鈴木絢音さん「言葉の海をさまよう」インタビュー 辞書は「1日1回は開く」作り手との対談集

鈴木絢音さん=北原千恵美撮影

辞書は「もう家族以上かも」

――『言葉の海をさまよう』が出版されます。

 そうなんです。本好きとしては、自分の本を出版できるなんて、夢のまた夢でした。本が好きなだけではできないことなので、こうして出版するご縁をいただけて、本当にありがたいことだと思っています。

――本書は辞書出版社の三省堂のバックアップにより、辞書の編纂者、編集者、校正者、印刷会社、デザイナーなど、さまざまな方にお話を聞いた様子が収められています。あらためて鈴木さんが辞書を好きになったきっかけも教えてください。

 小学生の頃は、辞書といえば、わからない言葉を調べるだけのものとして使っていました。私は中学2年生で乃木坂46に入って、高校2年生で上京したのですが、その際、兄から辞書をもらったんです。その兄が持っていた辞書は、もともとは父の辞書だったもので、さらに私が譲り受けて東京に持ってきて。当時、私は本を買うことだけにお金をかけていて、そのうち本を買うお金もなくなって読む本もなくなり、何か読むものはないかと辞書を読み始めたことがきっかけで、好きになりました。

――鈴木さんは乃木坂46に加入して今年で10年目になり、現時点で2期生は鈴木さんおひとりとなりましたが、そういった活動のかたわらに辞書があったんですね。

 確かにそうですね。東京に出てきた時は友達ができなかったので、話し相手は辞書ぐらいでした。乃木坂46の同期の2期生にも、最初は心を開けなかったんですが、年月をともに過ごすうちにコミュニケーションが取れるようになっていって。でも、どんどん他のメンバーが卒業していって、またひとりになりました。そうしていくなかで、辞書とのコミュニケーションが増えていったように思います。

――辞書は、友達のような存在なんでしょうか?

 いいえ、もう家族以上かもしれないです(笑)。今は家族にも話せないようないろいろなことを辞書に聞いてもらっていますし、1日1回は辞書を開いていますね。私は発信する場がブログぐらいしかないのですが、そこでいかに言葉で自分を表現するか、言いたいことが伝わるような言葉選びをずっと意識してきました。ブログを書く時も、辞書にはよく相談に乗ってもらいます。

――インターネットで何でも検索できる時代に、あえて「紙の辞書が好き」なんですね。ウェブと紙の違いはどこにあると思いますか。

 今回、対談連載をさせていただいた時に、紙の辞書がどんどん手に取られなくなっている現状を知りました。私自身「絶対に紙じゃなきゃいけない」と提唱してきたんですが、それは、紙の辞書を使うと、調べたい言葉だけではなく、周辺の言葉も目に入って学べるという良さがあるから。ただ、最近は電子化も進んでいてアプリでは手軽に辞書を使うことができますし、私もアプリを使うこともあるので、今はどちらにも良さがあると思っています。

「インフルエンサー」が掲載された理由

――乃木坂46の17枚目のシングル「インフルエンサー」が話題となったことで、この言葉を辞書に掲載することを検討したという、編纂者の方のお話も興味深かったです。そんな影響力についてはどのようにとらえていますか。

 大好きな辞書に影響を与えているなら、うれしいことでありつつ、責任を持たなきゃいけないことだと感じました。今後も時代の先頭を歩いていくぐらいの気持ちで進んでいきたいですね。

――編集委員の方が「ライター」の説明を1行書くために徹夜されたお話や、「まじ」「やばい」という言葉が実は江戸時代からあるというお話など、面白く読みました。

 辞書に関わる方々にお話をうかがって、これまで知らなかった事実をいろいろと知ることができました。小説などに比べると、辞書はなんとなく人間味がないといいますか、言葉の説明がずらりと並んで無機質な印象があったんです。でも、一つの語釈を作るにしても一晩中考え抜いてから書くということ、それでも送られてくる意見は、込めた思いの通りには伝わらないことがあるというお話を聞いて「辞書はすごく人間らしいものなんだな」と実感しました。さらに、時代によって取り入れられる言葉も変われば、語釈も変わっていくこともあるとうかがって、その時代ごとに大勢の人たちの力を集約した存在が辞書なんだなと。

――では、より一層その重みを感じたところもあるんでしょうか?

 辞書はたくさんの人たちの知恵や経験が詰まっているわけですから、本当に価格が安すぎるなって(笑)。もっと高くてもいいと、辞書ファンのひとりとしては思うところです。

――辞書にもそれぞれ特徴があるというお話も印象的でした。

 『新明解国語辞典』は面白い語釈の辞書だといわれているんですが、自分の視点ではなく、俯瞰からの視点を教えてくれる辞書で、一番人間らしくて私の視点を変えてくれます。『三省堂国語辞典』は真面目な印象がありつつも、新しい言葉や流行に敏感で、そこが私も好きなところですね。もし辞書を買うことがあったら、なんとなく買うのではなく、自分にどういうものが必要か確認してから、ぴったりの辞書を選んでほしいです。

本に生活を作ってもらっている

――もともと読書がお好きということですが、これまでに読んだ好きな本や、最近読んで印象的だった本を教えてください。

 今は『死をポケットに入れて』(チャールズ・ブコウスキー著、中川五郎訳、河出文庫)を読んでいます。いつも書店に足を運んで、実際に本の表紙や帯、ポップなどを見て、気になった本を手に取っていて。この本もそうやって選んだものです。本の情報収集の仕方としては、実際に書店で見て良かったら購入していますね。

 そうして手に入れた本を空いている時間や移動する時間に読んだり、お風呂に入って読んだり。お風呂で読書するのはあまり良くないかもしれませんが(笑)、本に水がかからないように静かに湯船に浸かって読んでいます。読書に集中している時期は、家で食べるご飯も本を手に取りながら食べられるように、片手に本、片手にスプーン1個でいけるメニューを作るようにしていますね。

――集中して本を読むことの多い鈴木さんは、そもそも小さい時から本が身近な存在だったのでしょうか。

 母が「本を読む子になってほしい」と、私をほぼ毎週末、図書館に連れて行ってくれていました。でも、その思いとは裏腹に、小さい頃は読書がそんなに得意ではなくて(笑)。文字を読むより、イラストや写真がたくさん載っている図鑑などをよく読んでいましたね。次第にいろいろな本を読むようになったのは、小さい頃に本に慣れ親しむ環境にいたこともつながっている気がします。

――では、鈴木さんにとって、本はどんな存在でしょうか?

 私は本に生活を作ってもらっている感じがしますね。「この本は外で読んでみたいからカフェに行ってみよう」「次はこの本を持って公園に出かけてみよう」と、本のおかげで外に出る気持ちになれます。きっと本がなかったら、家にずっと閉じこもって、何もしないから。本のおかげで外に出たり、本が読めるようにと片手で食べられる料理を考えたり(笑)、自分の世界を広げる手助けになってくれて、いろいろな経験をさせてもらっているから。私の生活には、本はなくてはならない存在ですね。

エッセイ・撮り下ろし写真も

――今回、対談の他にも、エッセイを書き下ろしていますね。

 これまでの私と辞書の歴史を振り返ったエッセイになっています。でも、自分の言葉に自信がないので、不安もあって……。みなさんに必ず正しい言葉で伝わってほしいとまでは言わないですが、私が言いたいことや考えていることがしっかりと伝わったらいいなと思います。

――16ページのカラー口絵も入るんですね?

 「文学少女の休日」をテーマに、大学の図書館と銀杏並木で撮影した、撮り下ろし写真が入ります。本に囲まれて撮影する幸せな時間でした。2020年に1st写真集を撮影していただいた時と同じスタッフさんに集まっていただいたので、以前との違いを見比べていただいても楽しいと思います。

――初めての著書をどう届けたいでしょうか?

 今回、どのページにも、自分のメッセージを込めすぎていて、思いが強い一冊になりました。 辞書の魅力を伝えられるのが一番ですし、手に取った方には、読んでみたいな、買ってみたいなと思ってもらえるとうれしいです。誰しもきっと辞書を一冊は持っている、または持っていたはずなので、その辞書をまた引っ張り出して見ていただくきっかけにもなればいいですね。