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金原瑞人さん「英米文学のわからない言葉」インタビュー 好奇心とサービス精神で

金原瑞人さん

 『赤毛のアン』の主人公アンの瞳は、住まいの屋根の色同様、緑色だった。映画「理由なき反抗」のジェームズ・ディーンが着ていたのはジャンパーでなく、ジャケット。かつて小説の大切な小道具だったたばこは、サリンジャーの短編集なら、ほぼどの作品にも登場する――。

 ヤングアダルト小説を始めとしたフィクション、ノンフィクションあわせて約660冊(共訳、絵本、文庫含む)の邦訳書をもつ翻訳界のベテランが、言葉にまつわる逸話を軽妙に記した。

 「イメージと意味のしりとり遊びが楽しかったですね。書きながら調べ、知人にも教わり、知らないことがほんとに多いんだとわかった」

 その楽しさが特に伝わってくるのが食べものの話題だ。日本であまりなじみのない多様なプディング、パイ、豆料理の描写は、海外暮らしの体験や好みをまじえ、細やかにリズミカルに筆を走らせる。「料理好き、もてなし好き」という著者の、好奇心とサービス精神のなせるわざだろう。

 医者をめざした大学受験で2度失敗し、あこがれの仏文科も入れず、屋台のカレー店を始めるつもりが大学院進学で縁あって翻訳家になった。

 大学や翻訳学校で教えながら言葉と向き合い、30年余。世界の変容を受け、変化を感じるという。たとえば『ドリトル先生航海記』。黒人差別とされる箇所を修正した改訂版が米国で刊行され、賛否両論の中、翻訳を引き受けた。「両方あっていいと思う。比べて読んでもらうと面白い」

 翻訳は「スクラップ・アンド・ビルド」、時代につれ更新していくものと考える。自身もヘミングウェー、モームらの新訳に気負いなく挑戦してきた。楽天的なこと、サービス精神、影の演出家との認識を翻訳家の条件とした上で「あまり賢い人間は無理ですよ」とも。読者への思いやりが欠けてしまうからと。AI時代にあっても、翻訳の仕事の未来には悲観も楽観もしていない。

 「間違ってもいいから、面白く書いて」。取材後、言葉をかけてくれた。きっと後進たちに、そんな無数のエールを送ってきたに違いない。(文・藤生京子 写真・横関一浩)=朝日新聞2026年2月21日掲載