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「取調室のハシビロコウ」書評 ドラマではない 「事実」なのだ

評者: 野矢茂樹 / 朝⽇新聞掲載:2026年02月21日
取調室のハシビロコウ: 黙っていたら、壊された。 ある弁護士の二五〇日勾留記 著者:江口大和 出版社:時事通信出版局 ジャンル:社会学

ISBN: 9784788720749
発売⽇: 2026/01/07
サイズ: 13.1×18.8cm/304p

「取調室のハシビロコウ」 [著]江口大和

 まず江口さんに謝っておきたい。最初の感想として、この本には最も不適切な言葉を書いてしまいます。面白かった。
 まるでドラマを見てるようだった。一人の弁護士が、ある日突然、犯人隠避の教唆をしたとの疑いで逮捕される。そして二二日間、長いときには一日六時間近く、計五七時間以上にわたって取り調べが行なわれた。さらに起訴され、勾留は二五〇日に及んだ。
 江口さんは無罪を主張し、すべては法廷において争うと決めて、黙秘権を行使した。それを喋(しゃべ)らせようとしてだろうか、検事は事件と関係ない人格攻撃を仕掛けてくる。「まあこんなようなお子ちゃま発想だったんでしょうね、あなたの弁護士観っていうのはね。全然大間違いですよ。ガキだよね、あなたって。なんかね、子供なんだよね。子供が大きくなっちゃったみたいなね。」これ、ちょっと、信じられないでしょう?
 江口さんと弁護団は、録画されている取り調べの様子の動画を合法的にYouTubeで公開している。「江口大和、取り調べ」でヒットするので、ぜひ見ていただきたい。また本書では、勾留中のさまざまな屈辱的な体験も記されている。
 だが、これはドラマではない。事実なのだ。これではやっていないのに「やりました」と言ってしまう人も出てくるだろう。人格を否定され、無能と謗(そし)られたあげく、こんなところで立ち止まっていないでやり直そう、みたいに言われる。それを江口さんは耐えた。
 家族や知人の面会も禁じられ、狭い独房に閉じ込められた彼を支えたのは、弁護人を通じて伝えられた奥さんの言葉だった。「家のことは気にしなくていいから、主張を曲げないで」
 取り調べの動画を見た幼い娘さんは、無表情で黙秘するお父さんを見て「ハシビロコウみたい」と言ったそうだ。繰り返すが、事実なのだ。面白かったで済まされる話ではない。
    ◇
えぐち・やまと 元弁護士。犯人隠避教唆の疑いで逮捕起訴され有罪確定。黙秘権侵害の国家賠償を最高裁に上告中。