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急激な社会変化のなかの若者像をとらえた「シン・中国人」 藤田結子が選ぶ新書2点 

『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』

  日本の若者は将来への不安が大きいといわれるが、アジアにはより熾烈(しれつ)な競争に悩む若者たちがいる。

 斎藤淳子『シン・中国人 激変する社会と悩める若者たち』(ちくま新書・946円)によると、中国では受験競争が過熱する一方で、少子化を止めたい政府は増加する親の負担を塾禁止令によって抑え込み、大手塾が次々と破産した。結婚も大変で、男性側は家族総出で新居を準備することが当たり前に。これは2005年以降、住宅価格の高騰により突如生まれた珍ルールで、いまや都会ではごく普通のマンションも億ションだという。急激な社会変化により、親子で価値観が大きく異なる。現代の若者は繊細になり、「気まずさ」に悩み、不眠症や潔癖症も多い。ここで紹介しきれない中国の今が満載だ。

★斎藤淳子著 ちくま新書・946円

『教育大国シンガポール 日本は何を学べるか』

 中野円佳『教育大国シンガポール 日本は何を学べるか』(光文社新書・924円)は、現地の競争過熱ぶりを伝える。小学校修了時の試験で中等教育で進むコースが振り分けられるため、小6時に家庭教師に月50万円注ぎ込む家庭も。母親たちは仕事と教育の両立に葛藤する。能力主義信仰は無意識のうちに差別的言動につながり、子どもを成功者にするよりも、差別やハラスメントの加害者にしないことのほうがよほど重要だ、という著者の言葉は至言である。
★中野円佳著 光文社新書・924円=朝日新聞2023年3月4日