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研究の進捗をリアルに伝える『「心の病」の脳科学』 佐藤健太郎が選ぶ新書2点

『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』

 うつ病、統合失調症などの精神疾患は社会的影響が大きいものの、脳の仕組みは複雑であるため、なかなか理解が進んでいなかった。林(高木)朗子・加藤忠史編『「心の病」の脳科学 なぜ生じるのか、どうすれば治るのか』(講談社ブルーバックス・1210円)は、これら精神疾患の研究の現在地を、多数の専門家が案内した一冊。うつ病と脳内の炎症の関係、心的外傷後ストレス障害(PTSD)のトラウマ記憶を消す薬など、意外な研究成果が次々と登場する。さまざまな角度からの研究が組み合わされ、脳という深い森の理解が一歩一歩進んでいる様子が、リアルに伝わってくる。
★林(高木)朗子・加藤忠史編 講談社ブルーバックス・1210円

『新版 動的平衡3 チャンスは準備された心にのみ降り立つ』

 福岡伸一『新版 動的平衡3 チャンスは準備された心にのみ降り立つ』(小学館新書・1100円)は、研究者にして当代きっての科学作家である著者の随筆集。「動的平衡」は、常に更新を続け、しなやかに変わり続ける生命のあり方を捉えた、著者のコンセプトワードだ。本書に収録された各エッセイのテーマは老化・がん・芸術など多岐にわたるが、いずれにも「動的平衡」という考え方が通奏低音のように流れている。サイエンティストの目に映る世界を、これほど鮮烈かつわかりやすく語れる才能は、書き手の端くれとして実にうらやましい限りだ。
★福岡伸一著 小学館新書・1100円=朝日新聞2023年3月11日