土佐有明さん「イカ天とバンドブーム論」インタビュー 憧れ共感した「道しるべ」

平成のはじめ、1989年から90年にかけて「イカ天」と呼ばれるテレビ番組があった。「平成名物TV 三宅裕司のいかすバンド天国」というバンドコンテスト番組で、たま、ブランキー・ジェット・シティ、BEGINなどが巣立ったことで知られる。
放送時期はバブル経済のころ。実力より奇抜性のバンドも目立ったことから、時代を反映した浮薄な番組、とみられることも。そうした批判への反論も込めて、「『イカ天』が日本の音楽シーンに与えた影響を正面から検証したかった」と語る。
番組内容の詳しい記述に加え、審査員、出演バンドのメンバー、批評家などへのインタビューを通じ、現代の「けいおん!」「ぼっち・ざ・ろっく!」に連なるバンドブームで「イカ天」が果たした役割を読み解く。ポイントは、「あれなら自分でもできそうだ」という参入障壁の低さ。その先駆けが「イカ天」というわけだ。
自身、中学~高校時代に「イカ天」を見て「人生が変わった」という。「稚拙なバンドが出ると『これでもやっていいんだ』と思い、うまい演奏には『ああいう風に弾けたら』と感じる。出演バンドが玉石混交だったから、玉にあこがれ石に共感できた」
高校に入るとベースを手にバンドを始めた。大学卒業後は編集プロダクションを経て音楽を主に書くライターに。プロのベーシストとして活動したことも。「イカ天」が道しるべになったのだ。
技術の進歩で、今は楽器に習熟していないアマチュアが1人でもプロレベルの音源を作れる。そんな時代なのに、演奏を磨き続け、人間関係に気を使い、楽器や機材の運搬に苦労する「コスパの悪い」バンドは根強い人気がある。なぜ?
「例えば自分がギターを弾いていて予想外のグルーブをベースが出した時など、化学反応やシナジーで1人では出せないノリが生まれる。達成感が違うんだと思います。1人で音楽を作ると設計図に合わせる感じで予想外が生まれにくい」。本書は、バンド論としても読み応えがある。(文・星野学 写真・篠田英美)=朝日新聞2025年5月3日掲載