- 『ビジネスと人権 人を大切にしない社会を変える』 伊藤和子著 岩波新書 1100円
- 『日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす』 河野龍太郎著 ちくま新書 1034円
一昨年に話題になったジャニーズ問題を通じて、「ビジネスと人権」という言葉を耳にした方も多いかもしれない。(1)は、グローバル化する企業活動への対応として確立してきた「ビジネスと人権」の潮流を手際よく整理する。これは、二〇一一年に国連が出した指導原則を端緒とし、企業に国際人権基準を尊重する責任を求めるものであり、その責任はバリューチェーン全体を含む。また今日、指導原則は法的拘束力を持つ方向性へと深化している。人権は今や「グローバルでビジネスを展開するために必要なライセンス」なのであり、日本企業にも認識のアップデートと実質的な対応が求められる。
働く人びとの権利保障は日本社会の足元の課題でもある。(2)は、日本経済の停滞の原因を低生産性に帰す見方に異を唱え、むしろ生産性が上がっても実質賃金が低く抑え込まれてきたことにその原因があると論じる。その際、長期雇用制の枠内にいる正規雇用労働者には定期昇給があるため、ベースアップがないことは問題視されてこなかった一方、その枠外で定昇もない非正規雇用労働者の活用が進められてきた。こうして日本経済は、人的資本に投資せず収益を溜(た)め込むことで収奪的な性格を強めてきたのではないかと、著者は警鐘を鳴らす。結局のところ、働く人びとの人権と尊厳、公正な待遇の保障という真っ当な方法こそが「ビジネスと人権」を推し進め、収奪的な経済からの転換を促すのではないだろうか。=朝日新聞2025年3月29日掲載
