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よしむらあきこさんの絵本「おなかのこびと」 きちんと食べることの大切さ、楽しく伝えたい

『おなかのこびと』(教育画劇)より

息子の偏食をテーマに

――子育て中の悩みはいろいろあるが、中でも「食事」のことに悩む親は多いのではないだろうか。「好き嫌いが多い」「食が細い」「食べすぎる」何が原因なのか、自分のやり方が間違っていたのだろうかと考えて不安になる…。よしむらあきこさんの絵本『おなかのこびと』(教育画劇)も、そんな子育ての悩みから誕生した。

 当時、息子がすごい偏食で悩んでいました。1歳の時に保育室に通い始めたのですが、お弁当だったんです。1歳児のお弁当ってすごく難しくて、ちょっとやわらかくしたいけど傷んじゃうし、そぼろ弁当みたいなものなら食べるかなと思うけど、冷えたら美味しくないんじゃないかとか。なぜかパンにするという発想がなくて、お弁当はご飯じゃなくちゃいけないと思い込んでいたのもいけなかったのかもしれません。温かいお味噌汁だけは保育室で用意してくれていて、あんまり食べないから「ご飯を味噌汁に入れて、ねこまんま風にしたら食べました」って先生に言われて。そうすれば食べるのかと思って、家でも同じようなものばかりにしていたら、実は食感が苦手だったらしく、より好き嫌いがひどくなってしまって。ご飯と海苔と納豆くらいしか食べなくて、どうしたらいいんだろうと。絵本のラフを描かなきゃいけないのに、頭のほぼ9割くらいがこの子に何を食べさせたらいいのやらと悩む日々でした。

――初めての子育てはわからないことだらけ。ちゃんとしなくちゃと、自分自身でプレッシャーをかけてしまうことに。

 どうしたら食べてもらえるか、本を買うなどして、すごく真面目にやっているのに、ぜんぜん食べない。今考えれば、もっと適当でもよかったと思うんです。白いご飯にふりかけとか、お魚をほぐしたものをのせるとか。でもそのときは、ちゃんとしなきゃいけないと思って、追い詰められている感じがありました。あまりにもそのことばかり考えるようになってしまったので、絵本も息子の偏食をテーマにしようと「くわずぎらいくん」というラフを作ったんです。

――好き嫌いが多い男の子のところに、名シェフたちがやってきて腕を振るうが、やっぱり食べないというオチが楽しい作品だったが、編集者の目に留まったのは物語とは別のメモ描きだった。

 後に『おなかのこびと』の表紙にもなる、おなかに小人がいる図を描いていたんです。子どもの頃に絵本か何かで、おなかの中の仕組みみたいな図を見たことがあって、小人がいっぱいいたんです。食べたものをみんなで溶かしたり丸めたりしているというもので、そのイメージがあって、息子にも「ちゃんと食べないと、おなかの小人が困っちゃうよ」と、よく言っていました。その話を編集の松田幸子さんに話していたら、「それ、いいじゃないですか」って。それが最初のきっかけです。

 小人が困る原因となる「食べ過ぎ、飲みすぎ、寝て食べる、おなかを冷やす」は、自分も親に言われてきたこと。食べてすぐ寝るなとか、よく噛めとか、姿勢をちゃんとしろとか。どうしてそれがいけないのか、どうしてちゃんと食べないといけないのか、説教臭くなるのは嫌なので、子どもにわかりやすく伝えられるように考えました。

『おなかのこびと』(教育画劇)より

“おなかの小人”のおかげでよく食べる子に!?

――完成まで1年余り。その間、息子さんの偏食にも変化が訪れる。

 保育室から保育園に移って、給食が始まったのはよかったんですけど、相変わらずなかなか食べない。連絡帳を見ると「ごはん、いちご完食」「パン、バナナ完食」それだけ。ご飯を食べている日はまだいいけど、嫌いな味付けの混ぜご飯だと食べない。完食できるまで、半年以上かかりました。新しい場所で、息子なりにいろいろ不安もあったんでしょうね。頑固に食べないでがんばったんだなと思って。先生方も一生懸命やってくださって、スプーンに1滴舐めただけでも「すごい!」って、ずっと褒め続けてくれて。完食できる少し前に運動会があって、楽しかったっていう気持ちもプラスになったのか、『おなかのこびと』の締め切りの前に完食しました。

『おなかのこびと』(教育画劇)より

 息子にもラフを見せていたので、その影響もあったらうれしいなと思っていますが、実際は保育園の先生の力が大きいと思います(笑)。完成した絵本も楽しそうに読んでいましたけど、自分はもう食べられるようになったぞみたいな、ちょっと上から目線でしたね。食べるようになってほんとに安心しました。ノイローゼになりそうだったので。今、11歳になって、ちょっと食べ過ぎなんじゃないかというくらい食べるようになりました。

大事な体のことを絵本で楽しく伝えたい

――作品は同じような悩みを抱える読者からの支持もあり、シリーズ化されることに。

 誰かの役に立っているんだなと思って、シリーズ化のお話はうれしかったです。シリーズは、ほとんど息子のことがテーマです。2作目の『はなくそにんじゃ』は、息子に鼻くそを食べさせないことが裏テーマ。息子が鼻くそを食べるのを見てびっくりしたんです。「食べるものじゃないから」って言ったんだけど、味をしめちゃったのか、食べるんですよね。なんで食べるんだろう。自分を確認しているのかな? その話を松田さんにしたら、「いや、食べないでしょ」って一般的じゃないって思われたみたいでしたが、でも、鼻をテーマにするのはいいかもしれませんねって。

 その後も、爪を噛む癖があったので『つめかみおばけ』とか、息子がゲームをするようになって目が悪くなってしまったこともあって『おめめのめがみさま』とか。作品を私物化しているようで申し訳ない気持ちもあるんですけど、「やめてくれー!」「ダメだと知ってくれー!」と、それぐらい本当に伝えたいと強く思っているので。私も子育てで困ったときや息子に伝えたいことがあると、それに関する絵本や本を探すんです。ダメな理由がわからないでやっているんだと思うので、怒るのも違うし、楽しくわかってほしい。絵本の方が自分で言うよりも伝わりやすいこともあると思っています。

――最新作の『さっぱりざむらい』は、お風呂が苦手な子どものお話。これまた、日々どうやってお風呂に入らせようか苦戦している人も多いだろう。

 息子は、髪を洗うときに頭にザバーッとお湯をかけるのをむちゃくちゃ嫌がって、お風呂嫌いになってしまったんです。毎日、どうやってお風呂に誘うか、おもちゃを用意したり、お風呂で使えるクレヨンを買ってみたり、いろいろやってみるんだけど、結局、「ザバー」をクリアしなければお風呂は楽しめないんですよね。小さい頃から、とにかく怖がりだったので、丁寧にやりすぎたかなと。ちょっと前かがみになればいいだけなのに(笑)。それを伝えたかったのと、お風呂に入ることで肌を大事にしてほしいというのがテーマです。

『さっぱりざむらい』(教育画劇)より

――子育ての悩みは尽きないもの。シリーズもまだまだ続きそうだ。

 ほんとに、息子がどんどんネタを提供してくれるんです。困るんですけど(笑)。私自身も体調を崩したり大病を経験したりして、体のことを知ることは大事だなと実感しているので、他の方にも役立つといいなと思って描いています。こういうのをやってほしいというリクエストや、できていないテーマもまだまだあります。仕上げ磨きがすごく大変だったので歯の話とか、最近は息子の夜更かしがひどくなってきたので、生活習慣のことをずっと考えていますね。概日リズムって大事だなと思って、それを伝えたくて、いろいろ調べることも。

 悩みはいろいろありますが、なんだかんだいいながらも子どもは育ちます。私の絵本を手に取ってくれる人は、きっと何か悩んでいたり、お子さんに伝えたいことがあったりする方が多いと思いますが、そういう親御さんのもとならきっと大丈夫。その思いは伝わっていると思います。少しでもこの絵本が助けになればうれしいです。一緒に頑張りましょう。