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吉川英治文学賞に「燕は戻ってこない」桐野夏生さん 「今を生きる人の苦悩や悲しみを書く」

(左から)蝉谷めぐ実さん、桐野夏生さん、上橋菜穂子さん

 第57回吉川英治文学賞(吉川英治国民文化振興会主催)が2日発表され、桐野夏生さんの『燕(つばめ)は戻ってこない』(集英社)に決まった。桐野さんは会見で、代理母出産を題材にした受賞作について「生殖医療の発達で何が正しい道なのか、私もよくわからないなか、いろんな立場の登場人物がいろんな意見を言い、みんなで考えていくような作品になった」と述べた。「乱歩賞でデビューしてから30年の節目での受賞。小説は今を生きている人の苦悩や悲しみを書くものではないかと思う。つらい思いをしている人が何を考えているのかを考えながら、これからも書き続ける」

文庫賞・上橋さん「あの時の自分に大丈夫」


 同時に発表された第8回吉川英治文庫賞は上橋菜穂子さんのロングセラー「守り人」シリーズ(新潮文庫)に。上橋さんはデビュー時に編集者から「児童文学は文庫になることはまれ」と言われて衝撃を受けた思い出を披露。「本がカバンに入っていないと怖くて電車に乗れないような私にとって、文庫はとても大切なもの。そこに入る物語に大人向けとか子供向けとかは関係ない。あの時代の自分に〈大丈夫、文庫になるし、立派な賞ももらえるよ〉と言ってあげたい」

新人賞・蝉谷さん「小説にすべてを捧げる」


 歌舞伎の女形の業の深さを妻の視点から描いた『おんなの女房』(KADOKAWA)で第44回吉川英治文学新人賞に選ばれた蝉谷(せみたに)めぐ実さんは、「芝居のために何でもしてやるという役者の姿は、小説のためにすべてを捧げようと思っている自分と重なるところがある。小説の奴隷となるくらいにがんばりたい」と意志表明。会見会場にいた選考委員たちから大きな拍手がわいた。=朝日新聞2023年3月15日掲載