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「ネット右翼になった父」書評 次々と崩れる推論 本当の姿

評者: 宮地ゆう / 朝⽇新聞掲載:2023年03月18日
ネット右翼になった父 (講談社現代新書) 著者:鈴木 大介 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784065308899
発売⽇: 2023/01/19
サイズ: 18cm/244p

「ネット右翼になった父」 [著]鈴木大介

 本書のタイトルに、はっとした方は少なくないかもしれない。久しぶりに会ったら、年老いた家族が右傾化していて戸惑ったという話は、珍しい話ではない。
 著者もそのひとりだった。2019年に亡くなった父は、高度成長期を駆け抜けた「典型的な昭和の会社員」。退職後は中国に長期で語学留学し、韓国語も学んだ意欲旺盛な人だったという。ところが晩年は「ネトウヨ用語」や嫌韓嫌中の言葉を日常的に使うようになる。息子との会話は途絶えがちになり、そのまま77歳で亡くなった。
 いつから父は「ネトウヨ」になったのか。嫌悪感と喪失感が交錯するなかで、答えを求めた息子は「敢えてパンドラの箱を開けよう」と腹をくくる。父のパソコンを開いたのだ。
 出てきたのは予想通り、ヘイト動画や記事、保守系のサイトの数々。息子はその一つ一つを見て、過去の父の言動と比べながら「本当の父」を探し始める。
 ところが、調べれば調べるほど謎は深まる。父は、ネット右翼や保守なら一致しそうな価値観について一貫性がない。もともと保守的な価値観があったのかすらあやしい。いったい父は何者だったのか。
 著者がここから何を見いだしたのかは、本書をぜひお読み頂きたい。興味深いのは、著者が立てる推論が次々と崩れていく過程だ。実はそこに鍵があると気づかされるのは、終盤に入ってから。やがて著者は自分自身が持つバイアスにも目を向けざるを得なくなる。
 ネットの情報の偏りについてはさまざまなデータの分析がされている。だが、世代や時代の変化などを経て、ひとりの人が摂取する情報から受ける影響をここまでつぶさに検証したものは珍しく、貴重な記録だ。
 この本は同時に、亡き父との関係を再構築しようと苦悩した息子の物語でもある。年老いた親と子の距離感の難しさは多くの人が経験するところ。共感するものがきっとあるはずだ。
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すずき・だいすけ 1973年生まれ。文筆業。著書に、自身の抱える障害をテーマにした『脳が壊れた』など。