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湊かなえ「告白」に特装版 液体の感触、かき立てる不穏さ

 人気作家・湊かなえさんのデビュー15周年を記念し、デビュー作『告白』の限定特装版単行本が23日、発売される。8500部の初版限り。全国の書店などで予約受け付け中だ。
 特別仕様のカバーには、『告白』のとあるモチーフを連想させる液体が入っている。本を手に取ると液体が流れ、表紙のタイトルが浮かび上がる趣向。柔らかく波打つ感触が、小説の不穏さをかき立てる。
 物語は、幼い娘を中学校内で殺された女性教師の語りから始まる。犯人やその級友、家族と視点人物が入れ替わり、事件の背景が明らかになっていくなかで、登場人物たちのいびつな心理や人間関係が描かれる。

 2009年の本屋大賞を受け、単行本・文庫本の累計で370万部超を発行したベストセラー。「復讐(ふくしゅう)という人間の暗い部分をクローズアップしつつ、自分の身にも起こるかもしれないと思わせる」と、特装版担当編集者の佐野健二さんは言う。
 一方、作中で鍵となるHIV(エイズウイルス)の描写は、治療法の進歩で発症や死をほぼ防げるようになった現状に必ずしも即していない。スマホもまだない時代、無知ゆえに恐怖と偏見にとらわれていく中学生たち。差別の歴史や構造を考える上でも、読み込みがいのある作品だ。(田中ゑれ奈)=朝日新聞2023年3月18日掲載