歌人で朝日新聞「東海歌壇」選者の加藤治郎さん(63)が作歌40周年を迎え、東京都内で5日、12冊目の歌集『海辺のローラーコースター』(書肆侃侃房)の出版記念会が開かれた。4人の歌人がパネリストを務めた批評会では、五七五七七の定型にとどまらない音数律に挑む姿勢が浮かび上がった。
加藤さんは1983年に短歌結社「未来短歌会」に入会し、88年に第1歌集『サニー・サイド・アップ』で現代歌人協会賞を受賞。口語短歌のパイオニアとして知られる。
パネリストの石川美南(みな)さんは、今回の歌集から〈おもちゃ売り場の貨物列車のパンタグラフが伸び切って生きてください〉といった歌を引用し、「五音七音を維持しつつ、組み合わせを変えたりして新しいリズムの波を生み出そうとしている」と評した。奥田亡羊(ぼうよう)さんは〈少女の目少女の目囁きあって少女の目少女の目〉を引用して「破調歌のシンメトリー性」について論じた。「改行して5行に書くと詩になる。その先は歌集のあとがきで触れていた中原中也に向かうのか」
加藤さんは「さまざまな五七のパターンの中で、作者と読者が新たな読みの契約ができるんじゃないか」と語った。(佐々波幸子)=朝日新聞2023年3月29日掲載