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「メディア地質学」書評 浮かび上がる「物質」としての顔

評者: 福嶋亮大 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月01日
メディア地質学 ごみ・鉱物・テクノロジーから人新世のメディア環境を考える 著者:ユッシ・パリッカ 出版社:フィルムアート社 ジャンル:社会学

ISBN: 9784845919291
発売⽇: 2023/02/03
サイズ: 19cm/331,17p

「メディア地質学」 [著]ユッシ・パリッカ

 メディアには二つの顔がある。私たちはふだんメディアを非物質的な「情報」の流れとして受け取っている。しかし、紙であれスマホであれ、メディアが故障したりそれを廃棄したりするとき、つまり広い意味での危機が起こるとき、とたんにその「物質」としての顔があらわになるだろう。では、このメディアの物質性はどう理論的に捉えられるだろうか。
 本書はこの問いを「地質学」や「考古学」のモデルで説明しようとする。F・キットラーやドゥルーズ&ガタリの思想を借りながら、フィンランド出身の著者はメディアの定義を大胆に拡張して、レアメタル、海底ケーブル、宇宙ゴミ、塵埃(じんあい)、鉱山、氷河等をもその議論の射程に収めた。つまり、地球環境そのものが、無数のメディアの地層を積み重ねた場(=メディア自然圏)として了解されるのだ。
 そもそも、電子メディアは廃棄されても無にはならない。その残留物は「ゾンビメディア」となって新たな地質学的な時間を生き始め、ときに人間に害をもたらす。ITはたゆまぬ進歩となめらかなつながりを売りにするが、その物質的な地盤には、ゴツゴツとした廃棄物のゾンビがうごめいている。
 面白いのは、著者が19世紀の地質学者ライエルを読み直しつつ「未来の化石」というパラドックスを語るくだりだろう。最先端の電子メディアは太古の鉱物資源がなければ成り立たず、いずれはそれ自身も化石に変わる。この新旧の時間性の「もつれ」を際立たせたメディアアートが、著者にとって地質学的思考の最良のモデルとなった。
 本書は野心的な研究ではあるものの、求心性を欠くのが難点である。それでも丹念に読めば、21世紀のメディア論の構築に向けた多くのアイデアに触れられるだろう。メディアと環境がもつれあいながら複数の時間の層を浮かび上がらせる時代、それこそが21世紀なのである。
    ◇
Jussi Parikka 1976年、フィンランド生まれ。デンマーク・オーフス大教授。専門はメディア理論。