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「江戸の女子旅」書評 楽しさ伝わり、気持ちが弾む

評者: 藤田香織 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月08日
江戸の女子旅 旅はみじかし歩けよ乙女 著者:谷釜 尋徳 出版社:晃洋書房 ジャンル:歴史・地理・民俗

ISBN: 9784771037007
発売⽇: 2023/02/14
サイズ: 19cm/184p

「江戸の女子旅」 [著]谷釜尋徳

 平成の終わりごろ、東海道を歩いた。日本橋から京都の三条大橋まで、寄り道も含めて約五百キロ。それはもうひたすらに辛(つら)かった。
 ウォーキングシューズを履いてコンビニでトイレも使え食料調達もでき、夜は個室のベッドで眠る旅でもズタボロになり、大人げない喧嘩(けんか)までした。これが江戸時代の、しかも「女子旅」となれば、どれほどの苦難があったことだろう。
 と、興味深く読み始めたのだが、これが意外にも楽しそうなのだ。もちろん着物に草鞋(わらじ)姿で一日平均三十キロも歩くのは容易ではない。関所の見分は執拗(しつよう)だし、宿には飯盛女もいる。油断はできない。気は抜けない。
 しかし、江戸時代に綴(つづ)られた二十を超える女性の旅日記を参考にまとめられた本書には「知らないものを見る」女子旅の喜びと高揚があふれている。
 旅の必需品や、実際に訪れていた名所旧跡、買い物リストを現在と比較してみるだけでも気持ちが弾む。行楽シーズンの「旅の友」にも!