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馬場朝子さん「俳句が伝える戦時下のロシア」インタビュー 日常が伝える戦争の悲惨

馬場朝子さん

 「ロシアに暮らす人は今、何を感じているのだろう」

 昨年2月、ロシアがウクライナへの軍事侵攻を始めた日から、考え続けてきた。両国とのつきあいは半世紀にわたる。1970年に熊本県の高校を卒業し、モスクワに留学。アフリカや南米など多様な地域からの留学生と寮で暮らしながら大学で文学を学んだ。帰国後、NHKに入局し、ディレクターとしてソ連・ロシア報道に関わってきた。

 軍事侵攻後、ロシアへの渡航は難しく、情報統制も厳しくなった。オンラインでただインタビューしても、紋切り型の答えしか期待できない。そう悩んでいた時、知人からロシア語で書いた俳句が一句、届いた。「ヘリ低く 飛びて不安の 風吹きぬ」(馬場さん訳)。

 もともと詩を身近に楽しむ文化のある旧ソ連の地域では、俳句もその一種として親しまれてきた。俳句を切り口にすれば、より深い心のひだを取材できるかもしれない。そう考え、ロシアとウクライナの俳人に連絡をとって取材。NHKのETV特集で放送された内容に加筆し、ロシア編を同書にまとめた。

 「特別軍事作戦 サラダに油 少なめに」と、今後の生活への不安を詠んだ句。「ロシアの春 知人の服の 血痕に気づく」とロシア国民としての罪の意識を詠んだ句。俳句には、多様な感情が渦巻いていた。戦争で家族が分断された痛みを詠む人も、取材に「戦争反対を言える時に言わなかった」と悔やむ人もいた。

 今、ロシアの人びとの生の声が日本に届かなくなっている、と馬場さんは懸念する。「日本も戦争に巻き込まれないとは言い切れない。戦時下に生きる人々の日常的なディテールを知ることでこそ、戦争の恐ろしさは伝わるのではないか」。ウクライナ編も近く出版予定だ。(文・守真弓 写真は本人提供)=朝日新聞2023年4月8日掲載