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「中国のメディア統制」書評 締め付けの強化を統計で可視化

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2023年04月15日
中国のメディア統制 地域間の「不均等な自由」を生む政治と市場 著者:于 海春 出版社:勁草書房 ジャンル:社会・時事

ISBN: 9784326303236
発売⽇: 2023/03/14
サイズ: 22cm/206p

「中国のメディア統制」 [著]于海春

 独裁体制の下でも、メディアによる権力批判が許容されることがある。それは、統治の正当性を保つには、全ての不満を封じ込めるよりも、ある程度の批判を認めた上で、それに対応する方が効果的だからだ。
 本書が対象とする中国でも、厳しいメディア統制が行われる一方で、一部の報道機関は政府と距離を取ってきた。特に本書は、改革開放後にメディアの商業化が進む中で、地方ごとに報道が多様化したことに注目する。2013年に広東省の週刊紙「南方週末」の社説が差し替えられた事件は有名だが、この事件は広東省メディアがそれまでも権力批判を行ってきたことを反映していた。
 それでは、なぜ中国メディアにはこのような「不均等な自由」が生じたのか。この問いに答えるべく、本書は地方レベルのメディア統制の手段に注目する。例えば、メディアのトップ人事が政府主導で決まり、政府を称賛する記者に賞が授与され、政府が積極的にメディアの合併を命じる地方では、新聞報道も政府寄りになる。逆に、こうした介入が弱い地方では、権力批判の余地も広い。
 本書の特徴は、この主張を統計データで裏付けていることだ。とりわけ、約14万件もの新聞記事を機械学習の手法で分析しているのは、圧倒的と言うしかない。また、以前から注目されてきた広東省メディアが中国全体でも恵まれた環境にあったことが、具体的な数字で示される。
 このようなメディアの多様性は、政治的な締め付けを強める習近平政権下では失われたのではないかと感じる人もいるだろう。本書は、その感覚を視覚化することにも成功している。2015年以降、新聞報道が急激に政府の実績を宣伝する方向へと収斂(しゅうれん)したことを示すグラフは一見の価値があるはずだ。本書には読者の感情に訴える表現が全く登場しないが、筆致が抑制されている分、逆にその説得力は強い。
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う・かいしゅん 早稲田大現代政治経済研究所次席研究員。専門は政治コミュニケーション。