本屋大賞・翻訳小説部門
翻訳小説部門は、昨年11月末までの1年間に刊行された翻訳小説が対象。1位に輝いたのは「われら闇より天を見る」(クリス・ウィタカー著、鈴木恵訳、早川書房)だった。舞台はアメリカ。酒と薬物におぼれる母、幼い弟を1人で支える13歳の少女ダッチェスと、中年の警察署長の2人を主人公にして進む犯罪小説だ。
英国推理作家協会賞最優秀長編賞(ゴールドダガー)をはじめとした海外の賞を受けたほか、日本でも昨年末発表のミステリー小説ランキング海外部門で3冠に輝き話題を呼んだ。
著者のクリス・ウィタカーさんは、ロンドン生まれの作家。本屋大賞の発表会では、ウィタカーさんのビデオメッセージが流れた。ウィタカーさんは本作執筆のきっかけを「20年前に強盗に襲われ、刺されたこと」と明かした。PTSD(心的外傷後ストレス障害)に苦しんだウィタカーさんは、セラピーの一環として文章を書き始めた。「最初は本を書こうとも思っていなかった」というが、自分の人生が変わるようにという願いを込めながら、物語の主人公ダッチェスに思いを託していった。「この小説は私にとって、どんなに人生が困難であっても、ポジティブな変化を起こすことは可能であることを思い出させてくれる物語です」
訳者の鈴木恵さんは受賞のあいさつで、ダッチェスというキャラクターの秀逸さが、大きな支持を集めた理由だろうと語った。「“泣ける”という言葉は好きではありませんが、泣けます。ダッチェスは日本の読者の心にも長く残るでしょう」
発掘部門、田辺聖子「おちくぼ姫」
発掘部門は、ジャンルを問わず2021年11月以前に刊行された作品が対象。今年は「おちくぼ姫」(田辺聖子著、角川文庫)に決まった。「おちくぼ姫」は、意地悪な継母に育てられたおちくぼ姫と青年貴公子のラブストーリー。和製シンデレラ物語とされる古典「落窪物語」を田辺さんが翻案したものだ。推薦した未来屋書店名取店の高橋あづささんは、「初版本は40年以上前に出ているけれど色あせず、いつ読んでもおもしろい。古典文学の入門編としてもとてもおすすめです」と作品の魅力を語った。最後に、書店員らしいアピールも。「稀有(けう)なことに、税込みなんと484円。いまどき、ワンコインでお釣りがきます」(田中瞳子)=朝日新聞2023年5月10日
大賞20冊読む記念企画
本屋大賞が20回目を迎えたことを記念し、過去の大賞作品20冊を読破する「本屋大賞コンプリート」企画がウェブで始まっている。
特設ページ(https://www.hontai.or.jp/20th/index.html)で歴代の大賞作品が一覧になっている「コンプリート用紙」をダウンロード。読んだ作品の横に印を入れ「#本屋大賞コンプリート」のハッシュタグをつけてSNSに投稿すれば、本好きの人たちと楽しめる。
全作読み終えたら、特設ページから記念の賞状もダウンロードできる。12月末まで。