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宗教という視点から関係の多面性を描き出す「迷えるウクライナ」 詫摩佳代が選ぶ新書2点 

『迷えるウクライナ 宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い』

 激動の国際情勢をよりよく理解し、日本の役割を考える上で手掛かりとなる2冊を紹介する。高橋沙奈美『迷えるウクライナ 宗教をめぐるロシアとのもう一つの戦い』(扶桑社新書・1100円)は、宗教という視点からロシアとウクライナの関係の多面性を描き出す。いずれも教会が国民国家と密接に結びついてきた国だが、戦争の影響でこの傾向は強まっていると分析。東方正教の信仰と歴史を共有してきた両国の正教徒に、今回の戦争がもたらした傷痕はあまりにも深いと本書は指摘する。
★高橋沙奈美著 扶桑社新書・1100円

『自衛隊海外派遣』

 加藤博章『自衛隊海外派遣』(ちくま新書・946円)は、派遣の歴史的経緯や活動の変遷を国内諸アクターの駆け引きに着目して描く。浮かび上がるのは、国際環境の変動に即して懸命に対応を模索してきた日本の姿である。日本が貢献を求められる局面は今後も増えると思われるが、できることを冷静に見極め、なぜ派遣するのか、その政策は正しいか、この間の経緯を検証し、議論を深めることが必要と著者はいう。
 高橋氏の「戦争は私たちを感情的に揺さぶり、感情的な判断を下させる」という一文が印象的だ。そういう時代だからこそ、客観的な知見に触れ、普遍的な課題としての戦争と平和、そして日本の役割を熟慮する必要があるだろう。
★加藤博章著 ちくま新書・946円=朝日新聞2023年5月27日掲載