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創作に影響を与えるほど安壇美緒さんが好きだった三谷幸喜さん脚本の大河ドラマ「新撰組!」

日野宿本陣にあった佐藤道場で近藤勇や土方歳三らは剣術を磨いた。近くには日野市立新撰組のふるさと歴史館がある=2022年、東京都日野市日野本町2丁目、平山亜理撮影。

 最初にAmazonで頼んだ商品のことを覚えているだろうか。私ははっきりと覚えている。大河ドラマ『新選組!』のDVD-BOX第壱集。高校生からしたら結構な金額の買い物だったが、お年玉で迷わず買った。大学受験から戻った時に自宅に届いているよう手配をした記憶がある。帰ったらDVD、だけを励みに受験会場の門を潜ったのが懐かしい。

『鎌倉殿の十三人』の評判も記憶に新しい、三谷幸喜脚本の大河ドラマ第一弾が『新選組!』だ。幕末を舞台に、動乱の時代を生き抜いた新選組隊士たちを描いた群像劇である。香取慎吾、山本耕史、藤原竜也、堺雅人、中村勘太郎(現・六代目中村勘九郎)、山口智充、山本太郎、小林隆、オダギリジョー。本作について語る時、試衛館メンバー(主人公・近藤勇の道場に集った多摩時代からの仲間)を演じた俳優の名前は残らず挙げておくべきだろう。まれに、登場人物全員が自分の古くからの友人であるかのように感じられる作品というのがあるが、『新選組!』はまさしくそういった類の希有なドラマだからだ。

 本作の執筆中、三谷氏は書き上げた脚本を試衛館メンバーの人数分だけ各回読み返していたらしい。それぞれのキャラクターがどういった心境でそのシーンを迎えることになるのか、緻密に計算をはたらかせていたことが窺える。「当て書き」の名手である三谷氏であるから、各俳優がどのように演技を上乗せしてくるのかまで十分に考え抜いていたのだろう。全体のバランスを俯瞰しながら、それを全49話分やり通すというのは、途方もない労力が必要だったことかと思う。けれども、いつか自分が群像劇を書くような機会に恵まれたら、迷わずこのメソッドを踏襲させていただくことだろう。

 ストーリー全体の構成から学んだことも大きい。『新選組!』の序盤は、当時としては「大河ドラマらしからぬ」ものとして受け取られがちでもあった。天然理心流の道場を継ぐことになった、“多摩の百姓”のかっちゃん(近藤勇)と親友・トシ(土方歳三)の周りで悲喜こもごもの事件が起こり、いつの間にか仲間が増えていく……というのが、ざっくりとした序盤のあらましだ。実に全体の四分の一もの話数が京都上洛前のエピソードに費やされており、放映時にはそれを冗長に感じた視聴者もいたようだ。

 しかし、彼らが何者でもなかった頃の日常を丹念に描いておいたことが、血の後半戦から活きてくる。新選組の行く末は悲しい。でかいことやろうぜ、という志を抱いて故郷を出て行った彼らは、紆余曲折を経て、試衛館以来の仲間・山南敬助をも粛正せざるを得なくなる。

 画面のこちら側にいるだけの私たちが、それを我がことのように辛いと感じるのは、彼らがそれまでに歩んできた人生を知っているからだ。浪士組に入る前の、なんてことはないけれど楽しかった日常を、同じスピードで見届けてきたから。無粋ながら、この構造だけを取り出してみると、「悲劇の前には団欒を設けよ」という作家の企みが見えてくる。実は、こちらは既に『ラブカは静かに弓を持つ』という自作品の構成の参考にさせていただいた。

 最後は個人的な話で締めると、本作以来かれこれ約20年、山本耕史のファンである。はまり役は多々あれ、やはり土方歳三役には特別なものがある。度々、企画によってよみがえっているキャラクターであるから、今後もメディアで観ることが叶えば嬉しい。