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阿部卓也さん「杉浦康平と写植の時代」インタビュー 歴史を未来の手がかりに

阿部卓也さん

 グラフィックデザインの巨匠、杉浦康平さんの仕事を軸に、戦後日本の出版デザイン史を克明に描いた。
 「デジタル化が進む2020年代に紙の学術書で何ができるか。ありそうでなかったテーマで専門家以外も読める本にしたい。そう考え、杉浦さんを中心に写植という技術が日本語の文字や本のデザインに与えた影響を大きな流れでとらえました」
 写植(写真植字)は、写真の原理で文字素材の印刷用版下をつくる技術だ。金属の活字を組み上げる活版印刷と比べてデザインの自由度が高く、1990年代前半までの雑誌や書籍、広告、放送などのデザインを席巻した。だが、DTP(パソコンによる印刷物のデータ作成)が登場すると急速に取って代わられた。

 武蔵野美術大学でデザインを学んだ90年代後半、写植が広く使われる時代は既に終わっていた。ただ、デザイン事務所のアルバイト中に先輩から「もう使わないから」ともらった書体見本帳は、写植のトップ企業・写研のものだった。
 「日本社会全体の『文字の形』にかかわる大きな変化なのに、誰も気にしていない。つい昨日まで黄金時代だったテクノロジーが突然廃れた。なぜ変化が起きたのか、次々登場する技術の耐久性や実体性とは何なのかといった疑問を抱きました」
 学生時代には仮面ライダーの怪人のデザインを担当し、架空の象形文字を使った言語体系も考案した。以来ずっと「文字とイメージの中間領域」に関心がある。本のデザインやキャラクターの創作など「実作と研究の中間領域」も行き来する。
 デザインと技術の歴史を知ることは、作品や消えた技術を懐古することとは違う。「自分たちの現在を認識し、未来を構想する手がかり」を得る営みだと考えている。次は絵本の戦後史に狙いを定めている。=朝日新聞2023年6月17日掲載