仕事のことを書ける年になった
――刊行おめでとうございます。『京大芸人』シリーズから14年も経つのですね。
『京大芸人』や『京大少年』では勉強について書かせてもらいましたが、「仕事のことも書きたいな」と思っていたんです。それを上手いこと、書けるようになったのが、この歳になったのかなって感じです。30代で書くのもおこがましい。うまく仕事の方向性も定まってきたのが、今、この40代後半だったのかなと思います。
――2022年12月には、じつに8年ぶりに、ロザン単独ライブも開催されて。
おっ、ありがとうございます!
――コロナ禍のつらかった3年を経て、本書の刊行は、ロザンが再び精力的に活躍していくなかでの、一つの流れかな、と思ったのですが。
たしかに、そう言われたらそうですね。何なんですかね。やる気が出てきたんちがいますかね(笑)。ライブをやって思ったのが、最近は仕事していても、緊張することって減ってくる。でも、単独の時は緊張したんです。「お、緊張してるやん!」。すごく心地よかった記憶があります。
――緊張を、心地良く感じる。そんな境地に至ったのですね。
「『緊張すること』を、できた!」みたいな感じですね。緊張を楽しめる域まで行った。(相方の)宇治原さんは更に極端な「緊張しい」。ライブで緊張しまくっていて、それも面白かったですね。そんな相方を見るのも久々やったし。それがお互いちょっと心地良かった。
――平場とは違い、ライブならではの、呼応し合う何かがあるのでしょうか。
そうですね。また、全体や、すべての構成を考えるから、そのへんはやりがいがあります。
手紙形式、スマホで書いた
――今回、「中年」という題名に驚きました。90年代後半、大阪の劇場で笑わせてもらいましたが、当時から全然変わっていません。過去のご自分や、宇治原さんに「手紙」を送る構成も新鮮です。
ありがとうございます。『京大中年』という題名は、すぐ決まったんです。今回、手紙を送るような構成にしたのは、14年前、お世話になっている出版社の編集者に、「最後まで書き切ってください」って言われたのが理由です。途中でやめることって、お仕事でも何でもそうですけど、結構できる。最後までやり切るのって、本当は一番難しいんですよね。その一言がすごく頭に残っていたんです。「最後まで書き切る形としたら、どうしたら良いのか?」って初めに考えて、「それやったら、手紙形式にすれば、最後まで無理なく書けるかな」と思ったのがきっかけです。
――だからでしょうか、3行、4行にわたる長文はあまりなく、散文詩のように語りかける言葉が1行、2行。ふだん、本に親しみのない人にも読みやすいと思います。
これはね、じつはこれ、スマホで書いたんですよ。今、スマホで文章を読む人が大半やと思って。本で読むより、うん。だからそっちに合わせたんですよ。そのほうが読みやすいんじゃないかなと思って、今回やってみたんですよね。
――たしかに長文では……。
目が追いつかないじゃないですか。あと、芸人ならではの書き方なのか、オチを最後に持ってくるように書くので。たぶんそれでやと思うんです。ホンマの作家の方は恥ずかしくてでけへんようなことができてしまう。僕、同じような言葉を繰り返すことが多い。それはわざとやっていて、強調しているんです。喋りでも、芸事でも多いんですよ。
――「大事なことは何度でも言う」。
そうそう。そういうような感じですかね。
ファンが多すぎてタクシー移動
18歳の宇治原さんへ。
どうも。
45歳を超えた相方です。
あ、まだこの当時は相方ではなく友達ですね。
長いものであなたとの付き合いも25年くらい経ちました。
(中略)
あ、センター試験中にごめんなさい。
先ほど書いてしまいましたね。
京大受かります。
だからそんなに緊張しなくても大丈夫です。
受かるから。
(本書第1章「18歳の宇治原さんへ」より)
――書き進めるうち、過去の宇治原さんや、菅さんご自身と対話する作業をされたと思うのですが、その時に新たに気づいたことはありましたか。
「記憶にない時があんねんな」っていう時期があることがわかりました。20代の時です。あとから資料を見た時に、「あ、そんなことしていたんだ!」って。「心斎橋筋2丁目劇場」とか、「baseよしもと」の時になるのかな。あんま記憶にない。忙しくて。
――物理的にいろんなことを考える暇がなかったのですね。
なかったですね。ホンマに世間も知らなかったし、流行っているドラマも知らなかった。見ている余裕がなかったですね。
20歳の宇治原さんへ。
びっくりすることを報告しますね。
「2人でずっと喋る仕事がしたい」と芸人を目指した僕らですが、歌って踊っていました。
気がつけば大人数の前で歌って踊っていました。
またまたびっくりすることを報告しますね。
爆発的に人気が出ます。
徒歩で通っていた、劇場から劇場までの間の距離わかりますよね?
ファンの方が多すぎるのでタクシーで移動するようになりました。
(本書第4章「20歳の宇治原さんへ」より)
――徒歩で行ける劇場間の移動を、当時は「ブサイクキャラ」だった宇治原さんが「おとり」となって歩き出し、注目をずらしたスキに「イケメンキャラ」の菅さんたちがタクシーで移動する、という。
ホンマにやっていましたからね。ほんまにやっていた。酷いよね(笑)。
躊躇なく「2人で喋りたい」
――その後、宇治原さんはクイズ番組で活躍し、全国的にブレイク。世の中の子どもたちに「勉強することはカッコいい」という認識を植えつけました。本のなかで印象的なのは、「2人で喋ることを継続する、継続したい」という言葉が、何度も何度も出てくることです。コンビ仲の良い芸人として知られるロザンですが、それにしても、躊躇なく言い切る姿は、カッコいいですね。
ありがとうございます。「2人で喋るのが楽しいからやる」。読者の方に言いたいんですけど、自己完結で良いと思うんですよね。他人に言うものじゃない。僕は今回、本にしたから他人に言っているんですけど、「2人で喋っていきたいって、恥ずかしいことは何もない」って言いたかったのかも知れません。
ただ、そこをどうしても、「外に向けて言う」というような言葉で書こうとすると、飾ってしまいがちだと思うのですよね。「B'zとか好きやねん」って言うても「B'zのどんな曲好きなん?」って聞かれたら、結構マイナーな曲を言うてまう、みたいな。ところが僕は、あんまりそういうのが無くて。「映画では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』が一番おもろいやろ!」って。
――ド直球。メジャー路線。
はい。「それで良いのにな」って。そこの恥ずかしさが無くても良いんじゃないかっていう提示でもあるかも知れないです。
――そこへの恥ずかしさを持たなくていい、むしろ、そこに恥ずかしいと思うほうが、恥ずかしい。
あっ、そうですね。おっしゃる通りですね。「誰かに見られるから、こうで……」っていう発想がないのかも知れない。
――そういえば、本の中では、「するべきではないリストに入れておきたい案件がある」として、「それは、憧れ」と書いておられますね。
はいはいはい。
――「誰かに憧れて模倣しても意味がない」。
憧れることは悪いことではないとは思うんですけど、そこからいかに自立するかが、ひじょうに大事かなと思います。とかく、どうしてもみんな、「憧れる存在」になろうとするんですよね。それは、僕は違うと思っていて。「別にそうじゃなくてもいいんじゃないか」って。
――「人気者になりたい」「売れたい」って夢見る多くの芸人とは、体温が違うように見えます。
僕、承認欲求がたぶん、あんまりないんですよね。「誰かに認められたい」とかがない。そんな自分にはわりと早いころから気づいていました。
(後編に続く)