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パーパー・ほしのディスコさん「星屑物語」インタビュー 病気・家族…生い立ちをさらけ出した「自叙伝」

ほしのディスコさん=北原千恵美撮影

表に出るのは苦手な性格だったけど

――初のエッセイ集『星屑物語』は、所属事務所のサイトで連載した原稿を書籍化されたものですが、執筆されたきっかけはなんでしょうか。

 2020年に緊急事態宣言があって、お笑いの仕事が全部なくなった時期に、事務所の社員さんに「月イチで何か文章を書いてみませんか?」と声をかけていただいて、それならばエッセイを書きたいと思って始めることになりました。

――自叙伝を出したかったそうですね。

 小学生のとき、「いつか有名になって自分の本を出してみたい」ということを人生の最終目標にしていて。今回エッセイの連載を書くことになって、自叙伝を書くきっかけになるんじゃないか、いつかこのエッセイを書籍化できたらという気持ちで毎月書いていたら、本当に「本にしませんか」というお話をいただいて、書籍化されました。

――もともとはご自身のコンプレックスを表に出して笑いを取ったり、ネタにしたりすることは、すごく苦手な性格だったと書かれてあります。

 僕自身は誰かに見られることや表舞台に出ることはすごく苦手な性格。でも、お笑いに出会ってから、少し意識が変わりました。「誰かを笑わせたい」という気持ちが芽生えて、そんなときだけ少し前に出られたり、舞台の上に上がって何かができたりするんだと気づいたときから、やりたいことができると感じていますね。

――おばあさまと一緒になんばグランド花月に行って、初めて生のお笑いに触れたお話や、人生のどん底だった頃にコント番組「笑う犬の冒険」に出会ったこと、有名人が田舎のおうちに泊まる番組「田舎に泊まろう!」の収録でレギュラー松本さんがご実家に泊まられたお話など、お笑いの世界に導かれるような出来事についても書かれています。

 そうですね。ウッチャンナンチャンさんの「笑う犬の冒険」に出会ってから、お笑いって本当に素晴らしいなあと思って、そこから身近なところでたくさんお笑いにご縁がありました。僕の人生においてお笑いは、どんどん必要不可欠なものになっていきましたね。

――今、その憧れの方がいる事務所に所属されています。

 奇跡的なことですよね。たまにウッチャンナンチャンの内村光良さんと南原清隆さんにお会いできるんですが、やっぱり未だに緊張して、なかなか自分から話せません(笑)。人生の転機を作ってくれた方と一緒に番組に出られることもあるという喜びがあって、もし今、急に芸人生活が終わったとしても、ご一緒できていることは一生に残る思い出です。

今まで誰にも伝えなかったこと

――そんなお笑いのお話のほか、生い立ちについての初告白もありました。なかでも第2章の「生きる意味」では、上唇と口の中の天井部分が裂けた状態で生まれてくる先天性の「口唇口蓋裂(こうしんこうがいれつ)」だったことや、複雑な家庭環境のことも書かれています。

 今まで知り合いにも話していない内容だったので、発表することはとても勇気が必要でした。でも有名になったら、もっとも書きたい部分でもあったので、エッセイ集を作るにあたって、一番時間をかけて書いたところになります。

――今まで、いろいろなインタビューでも、まったくそのお話はされてないんですよね。

 一度も話していません。お笑い芸人という職業をしているので、話すことでお笑いに対してどう影響するかを考えると、やっぱり言わないほうがいいんじゃないかという判断でずっと言っていませんでした。でも、芸人としての経歴が13年になって、自分の生まれてきた意味を考えることがあって。「自分にしかできないことってなんだろう?」と思ったときに、病気のことも伝えたほうがいいんじゃないかなと考えました。

 サイトで連載していたときも、この話はしていません。エッセイ集の第2章と第3章は、書籍化にあたって書き下ろした内容で、本にしか載っていないんです。病気のことは、誰にも伝えずに出版に至りました。

――2年に1回のペースで8回手術して、そのたびに全身麻酔をして、入院して。その間は鼻から管を通す流動食だけで食事ができない、とありましたが、辛かったですね。

 でも、意外と人間ってすごいなって思ったんですが、手術をやればやるほど慣れてくるといいますか。幼少期からやっていたので、それが普通になっていって。徐々に物心がついてくると、手術の痛みよりも、「なんで自分だけこういうことをやらなきゃいけないんだろう」という精神的な辛さが増していきました。そんなときに、やっぱり家族や母の存在があったから、乗り越えられたということはありますね。

母には感謝してもしきれない

――お母様への思いやお写真も掲載されていますが、やっぱり特別な存在なんでしょうか。

 母子家庭だったこともあって、母は一番僕に近い距離感で、僕のためにいろいろと支えてくれていて。本当に母がいなかったら、きっともう途中で、自ら命を絶つようなこともあったかもしれません。母の存在がなければ、今こうして芸人として活動ができていなかったかもしれないですし、感謝してもしきれないです。ただ、僕は恥ずかしがり屋なので、直接、感謝の気持ちを伝えたことはあまりなくて。このエッセイにしても、どういう内容にしたかはまだ母にも伝えていません。

 でも、感想は直接、聞きたくないかな(笑)。恥ずかしい。ダイレクトに言われると気持ちが伝わりすぎてしまうかもしれないので、感想は書面でもらえたらうれしいですね(笑)、文字だったらなんとか耐えられるかなと。

――シャイなんですね(笑)。言語の訓練をされたお話もありますが、訓練を経てカラオケ店で、お母様の前で正しい発音で歌を歌えて、幸せを感じたお話も書かれていました。

 ちゃんとしゃべれるようになったら、最初にしたかったことが、歌うことだったんです。それまで手術をして退院した日は、最初に美味しいものを食べて、その後、おもちゃを買ってもらう流れでした。ずっと自分の発音に対してコンプレックスがすごくあって。人前でも、しゃべりたいけどしゃべりたくない……という気持ちで、たいてい無口でいました。でも、その日は初めてカラオケ店に行くことになって、「やっと自由にしゃべれるんだな」「自由に歌うことができるんだ」と、生まれて初めての楽しいカラオケで、胸に残る歌になりましたね。

――その後、2022年に本名で歌手デビューされて、お母様への思いも歌にされています。

 はい、でも母への思いを込めた歌があるなんて、今も言っていなくて。なかなか伝えるのが苦手なので、昭和の男のように不器用なところがあります(笑)。この本を読んで、その事実も知ってもらえたら。

歌もあきらめないでよかった

――お笑いもそうですが、ほしのさんにとって、歌も大事なものですよね?

 有名になりたいと思ったときに、お笑い芸人と歌手のどちらを目指そうかと考えたことがありました。でも、発音のコンプレックスもあって、これでは歌手にはなれないだろうと一度は諦めて、そこからお笑い一本で来ていて。でも、歌うことはすごく好きで、2020年からYouTubeを始めることになったので「歌ってみた」動画をアップしました。すると、すごく反響が大きくて、その後CDデビューもさせていただいて、歌うこともあきらめないでよかったと思っています。

――好きなアーティストにも、その思いは伝わっていますね。

 今回、本の帯にコメントを書いていただいた、ロックバンド「クリープハイプ」の尾崎世界観さんのことが好きで、以前からずっと曲を聴いています。「キングオブコント2017」の決勝に出させてもらったときのインタビューで、クリープハイプのライブTシャツを着ていた姿を見たバンドのファンの方が、メンバーの方にそのことを伝えてくれて。そこから尾崎さんにも知ってもらえて、ずっと思い続けることって大事だと感じました。今は尾崎さんともときどき飲ませていただくこともありますが、いや、もう考えられないことです。何度お会いしても緊張がとけなくて、お酒を何杯飲んでも、酔いがまわりません(笑)。

――Perfumeさんもお好きなんですよね。

 高校3年生のときにPerfumeさんを知って。僕の「ほしのディスコ」という名前も、Perfumeさんの「ワンルーム・ディスコ」という曲名からお借りしています。初めてお会いしたときに、「勝手にお借りしていたので、お返しします」と言ったら、かわりに「三人合わせて星野です」という名前をつけていただきました。本当に申し訳ないと思いながらも、ちょっと難しい名前だったので、1年でやめさせていただきましたが、今も応援させていただいています。

次の目標は武道館ソロライブ?

――今回、ご自身の体験を書かれましたが、過去の出来事があったからこそ、強くなれた一面もありますか。

 一度、「生きてる意味ないな」と、「生きていても辛いだけだから死んだほうがいいか」と思ったときに、死のうと思ったんです。でも、ここで死なずに“1回死んだことにして奇跡的に生き返った状態”ということにしたので、もう何があっても、正解といいますか。失敗してもいいし、成功したらそれはすごくいいし。だから、失うものはないという状態になれました。

 芸人なのですごくすべったり、挫折するようなことがあったりしても、べつにそれでもいいと思える精神が、子どものときに備わったのかもしれません。生きる覚悟が決まっていたので、夢が叶うまでやり続けられる心が身についたのはよかったのかなと。強くなれている自分を知ることができたので、諦めずに生きてきてよかったです。

――苦しかった過去をあえてさらけだすことで、どんなメッセージが伝わればいいなと思いますか。

 僕が本を出すことによって、世界を変えたいとか、そんなだいそれた目標はまったくないんです。でも、僕と同じ病気の方だったり、同じような境遇の方だったり、そういった悩みを抱えた方にもし読んでもらえて、それで何か少しでも楽しく毎日を過ごせるようなきっかけ作りになったらいいなと思います。

――今回、マセキ芸能社に入るあたりでお話は終わっていますが、「星屑物語2」を書く予定は?

 「パーパー」というコンビをやっていますし、「2」を書きたいところでもありますが、今ちょっとコンビ仲がよくないので(笑)。今書くとただの悪口になって、美談がひとつもない状態なので、もうちょっと期間を空けて書けるときが来たら、書こうかなと。

――そのときも楽しみにしています(笑)。今回、自叙伝を書くという野望を達成されて、今後の抱負はありますか。

 本を出すことが一番の目標だったので、今は本を書いた達成感でいっぱいなんです。でも、今後はやっぱりお笑いの活動をあらためてもっとやっていきたいので、お笑いの活動と、そして歌うことも両立できるぐらいにどちらもやっていけたら。今のところ、ネタもやりつつ歌もやるという、日本武道館でのソロライブができることを目指しています。さらに、紅白歌合戦にも、アーティストとして出られたらなと。まあ、ちょっと芸人としての目標がだいぶ薄いんですけど(笑)。芸人は僕の人生でもあるので、一生やる、という意味では長くやっていきたいですね。

音声でもインタビューを!

 好書好日のポッドキャスト「好書好日 本好きの昼休み」に、ほしのディスコさんがゲスト出演! ご本人が肉声で「星屑物語」の読みどころを語っています。(後編は5月18日に公開予定です)