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新川帆立さん「縁切り上等!」 キャラ設定「女性弁護士=気の強い女性」ではなく

新川帆立さん

 デビューからの2年で出した本が次々にヒットし、映像化される。いまもっとも勢いのある作家・新川帆立(ほたて)さんが最新作で選んだテーマは、離婚だ。

 「縁切り上等! 離婚弁護士 松岡紬(つむぎ)の事件ファイル」(新潮社)の中心人物・紬先生は、北鎌倉にある縁切り寺の末娘。寺の目の前で、離婚専門の法律事務所を開く。

 夫のモラハラと浮気に耐えられなくなった女性。浮気した妻に家を出て行かれた男性。熟年離婚を決意する女性……。紬先生の手がける離婚案件がそれぞれの人生とともに描かれる連作短編集だ。

 登場人物たちは、紬先生が“女性弁護士”のイメージとは違うことに驚く。〈肩で風を切って歩くスーツ姿の女性〉とはほど遠く、のんびりとした性格。人物造形には、ステレオタイプに対抗する新川さんの思いがこめられている。「女性弁護士=気の強い女性、という世間の見方が根強いですよね。だから世間が見ていないものを書いてみたいと思いました」。新川さん自身が元弁護士。現実の女性弁護士はもっと多様でカラフルだと知っている。

 キャラクター設定は、小説を書く度に明確に意識している。「いつも、世の中の人が思うテンプレートから外して書いている。小説を通して、こういう人もいるかもと思ってもらえれば、こっちの勝ちです」

 「元彼の遺言状」で2021年にデビューして以来、想定読者をはっきりと持って作品を書いてきた。熊本県在住の架空の女性、ノリコ(27)だ。「作業療法士の彼女は、実家から車で10分のアパートに一人暮らししています。趣味は、読書とカラオケ。読書といっても、実際には友達とイオンで映画を見た帰りに通りかかった書店で、帯に『映像化』と書いてある本を手に取る程度。仕事もプライベートもそれなりに順調で幸せだけど、何となく倦(う)んでいる。娯楽を必要としています」

 ノリコの話になると、止まらない。彼女は、もう一人の新川さんでもあるという。「私がいま東京にいるのはたまたま。存在したかもしれない自分に向けて書いているんです」(田中瞳子)=朝日新聞2023年8月2日掲載