ISBN: 9784422430461
発売⽇: 2023/06/27
サイズ: 19cm/223p
「進化が同性愛を用意した」 [著]坂口菊恵
同性愛は「不自然」だと思っている人は多いかもしれない。だって子どもできないでしょ、と。
そういう人こそ本書を読むべきだ。
著者がまず口酸っぱく説くのは、同性への性行動は自然界にあふれているということ。たとえば。
アフリカにすむボノボという類人猿は、メスどうしが抱き合って性器をこすりつけ合う。性行動の半分以上は同性相手だという。イルカは若いオスが口やヒレで互いの性器を愛撫(あいぶ)する。ゾウのオスも鼻や口での前戯を楽しんだ後、勃起してオスの相方にのしかかる。同性どうしで性行動をする動物は、1500種も見つかっているそうな。
歴史的には人間の同性愛も当たり前。帝政ローマの上流階級では同性婚がよくあった。中世の欧州には同性の恋人を公然と持つ君主がいた。欧州が同性愛に冷たくなったのは、当時のイスラム社会で男色が盛んで、十字軍時代に彼らを異端とみなしたがった副作用かもしれないという。日本でも「衆道」文化があったのは言うまでもない。
ただ、同性愛が進化で生き残った理由はよくわからない。同性愛者は自分で子作りせずとも親族の子育てを手伝うので遺伝子を残せる、といった理屈はあったが、説得力はあまりないという。同性に性行動をする動物たちのほとんどは異性にもするし、人間社会でも同性愛文化が発展しやすいのは、異性との接触や性交の機会が限られているときだという本書の指摘も、ちょっと気になる。
とはいえ高齢者の恋愛もあるし、子どもはできないとわかった上で結婚する人もいる。性行動の本来の目的は、個体どうしの協力を促すこと。たとえ生殖につながらなくても無駄にはならないのでは――それが著者のひとまずの結論だ。
進化が「用意した」のかはともかく、同性愛はあって当然。他人の恋愛に口を出すのは、やっぱり大きなお世話でしかない。
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さかぐち・きくえ 大学改革支援・学位授与機構教授。専門は進化心理学、内分泌行動学、教育工学。