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宮知和代さんの絵本「おたのしみ じどうはんばいき」 ボタンを押すと何が出てくる?

縦開きの絵本を作りたい

——「のどが かわいたなぁ。」男の子がジュースを買いにやってきたのは、「なにがでるか おたのしみ」という自動販売機。「1」のボタンを押すと、「ごろごろごろ……」出てきたのは「いちご」! 次に「2」のボタンを押すと……「忍者」! 次々と思いもよらぬモノが出てくる、宮知和代さんの絵本『おたのしみ じどうはんばいき』(アリス館)。縦開きのため、本当に品物が飛び出してくるようにも見え、ワクワク感が増して楽しい絵本だ。作品のアイデアは「縦開きの絵本を作ろう」というところから生まれたという。

 最初は、絵本勉強会の仲間とのグループ展に向けて、作品を考えていたんです。仕掛け絵本を作りたいなと思っていたんですけど、ちょっと難しくなってしまうので、縦開きの絵本はどうかなと思ったのがきっかけです。当時はまだ縦開きの絵本が少なくて、面白そうだなと。それで、縦にしたときに、本の形が何に見えるか考えていたら、エレベーターに見えたんです。1階でドアが開くと「いちご」が出てくる、2階に行くと「忍者」が出てくる、これはすごくいいんじゃないかと思いました。でも調べてみたらエレベーターの絵本はすでに何冊かあって。それじゃあ他のものにしようと、次に見えてきたのが自動販売機でした。自動販売機の絵本はほとんどなかったのと、エレベーターのボタンを自動販売機のボタンに変えられるのもいいなと思い、決めました。

『おたのしみ じどうはんばいき』(アリス館)より

次は何が出てくる? 言葉遊びは意外性を大切に

――いちごに忍者、ボタンを押すと何が出てくるかにもこだわりがある。

 出てくるものは意外性のあるもの、みんなが思いつかないようなものにしようと考えました。最初の「1」だけは、思いつきやすく子どもが好きなもので「いちご」。次からは、自動販売機から出てこないようなものがいいなと思って、「2」は「忍者」に。あとは、食べ物、動物、妖怪、神様など、バラエティに富んだものが出てくるようにしました。ありとあらゆるものが出てくるというのは、八百万の神のような、全てのものは同じように尊いという日本的な感覚がしていいなと思ったのでそうしました。

――意表をついたのは「4」の「しらす」。ぱらぱらぱらと「しらす」が出てくる絵は、なかなか衝撃的である。

『おたのしみ じどうはんばいき』(アリス館)より

 藤沢市の辻堂にある造形教室で、子どもに絵や工作を教えているんですけど、その辺りは「しらす」が有名なんです。それで、教室の子どもたちが読んだときに喜ぶかなという思いも込めています(笑)。「10」は最初、「柔道」にしていたんですけど、編集者さんから子どもにわかりにくいんじゃないかと。あと、主人公はジュースを買いにきたので、一度も出てこないのはかわいそうだから出してほしいといわれ、「10」をジュースにしました。

 悩んだのは「10」の後。その先がないと、絵本としても山がないので。「100」がいいかなとか迷っていたんですが、そのうち、自動販売機の千円札を入れるところに「1000」と書かれているのに気づいて。「1000」で何かできないかなと考えていたら、最後のシーンがイメージできて、これでいけると思いました。

貼り絵で立体感や質感を表現

――作品の絵は貼り絵で作られている。影を出して立体的に見えるように、厚手の紙を使ったり、何枚も紙を重ねたりと、細かい工夫を凝らしている。

 子どもの頃から紙が好きで、折り紙や包装紙など、いろんな紙を集めていて、15年くらい前から紙を使ったコラージュ作品を作るようになりました。それで、絵本も貼り絵にすると面白いんじゃないかと思ったんです。

 紙の質感や素材もいろいろで、背景になる地の部分には段ボールを使っています。人の肌の色は一色ではないので、既存の紙を使って均一にしてしまうのはいやだなと思い、和紙に色を塗って作りました。目の形も型で抜くのではなく、一つひとつカッターで切っています。同じ形にしてしまうと、ロボットみたいになってしまうので。文字も手作業で作っているところが多いです。自動販売機の取り出し口には、プラスチックのシートを使っています。そのままだとわかりにくいので、少しキズをつけて、マットな感じにしました。

何度読んでも楽しめる仕掛けを

――1番のこだわりは、何度読んでも発見があるように作ること。

『おたのしみ じどうはんばいき』(アリス館)より

 販売機の取り出し口の横にあるマークなど、話の大きな流れとは関係がないところに、いろいろ仕掛けがあります。私も子どもの頃、そういう仕掛けが好きだったので、気づいた子はきっと楽しいだろうなと思って。忍者にも伊賀と甲賀がいたり、しらすも実は3種類いたり。しらすは稚魚なのでほとんど違いはないんですけど、顔の形や尻びれのつき方を変えています。魚好きな子が見て気づいてくれたらうれしいなと思って(笑)。そういう仕掛けがたくさん隠れているので、何度も読んで楽しんでもらえるとうれしいです。

――宮知さんのデビュー作となった本作は、子どもたちに大人気になったが、完成までには時間がかかったという。

 最初にグループ展でラフ作品を出して、アリス館の編集者・郷原莉緒さんに声をかけていただいてから、出版するまで5年かかったんです。なかなかOKが出なくて、なんどもなんども直しているうちに、だんだんわからなくなって迷走しました。縦開きだったのに横にしてみたり、1から100までボタンを作っていろんな言葉遊びを考えてみたり、ストーリー仕立てにしてみたり。いろいろやりすぎて面白いのかどうかわからなくなってしまって、最終的にはやっぱり元に戻そうと。そこからブラッシュアップしていきました。そこにたどり着くまでは、もっと面白くなるんじゃないかと試行錯誤していて、いろんな案を出し切ったことで、ようやくこれが本当に面白いと思えたのかもしれません。初めての絵本作品で、わからないことだらけでしたが、郷原さんもずっと待っていてくださって、本当にありがたかったです。郷原さんじゃなければ完成できていなかったと思います。

 絵本はエンターテインメントのひとつだと思うので、これからも、繰り返し読んで発見があって楽しんでもらえる絵本を作っていきたいです。1回読んで終わりではなく、何度も読んで楽しんでもらえるのが、きっと絵本の幸せ。何度も何度も、ぼろぼろになるまで読んでもらえるような絵本を作りたいなと思っています。