スウェーデン在住のガラス作家、山野アンダーソン陽子によるアートプロジェクトを、写真家の三部正博が記録している。静物画に描かれるオブジェクトは画家によって発見され、描くためにアトリエに運びこまれるものだと思いがちだが、山野はこのプロジェクトでアーティストから描いてみたいガラス器の形状を聞き取り、まだ存在しないそれらを実際に制作している。描き手は現実のものとなった想像上の器を改めて描くことで、それを絵のなかに再び存在させる。
面白いと思うのは、一連のプロセスが画家ではなく、山野からの働きかけで生まれている点だ。パフォーマンス作品ならば「記録」するのは当然だが、山野はなぜ、自作を描いてもらおうと思ったのか。記録なら、写真でもよかったのではないか。そう考えると、描いてもらうという選択そのものに、オブジェクトの制作と日常的に向き合う彼女の、手では掴(つか)めないなにかへのこだわりを見る気がするのだ。三部もその、目には見えないなにかに向かってシャッターを切っているような気がしてくる。=朝日新聞2023年9月16日掲載