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山野アンダーソン陽子〈ガラス〉、三部正博〈写真〉「Glass Tableware in Still Life」 手で摑めないなにかへのこだわり

本書から、三部正博「小笠原美環(みわ)が描いた静物画〈Still〉」(2022年)。本書を元にした展覧会「ガラスの器と静物画 山野アンダーソン陽子と18人の画家」が、広島市現代美術館などで開催予定

 スウェーデン在住のガラス作家、山野アンダーソン陽子によるアートプロジェクトを、写真家の三部正博が記録している。静物画に描かれるオブジェクトは画家によって発見され、描くためにアトリエに運びこまれるものだと思いがちだが、山野はこのプロジェクトでアーティストから描いてみたいガラス器の形状を聞き取り、まだ存在しないそれらを実際に制作している。描き手は現実のものとなった想像上の器を改めて描くことで、それを絵のなかに再び存在させる。

 面白いと思うのは、一連のプロセスが画家ではなく、山野からの働きかけで生まれている点だ。パフォーマンス作品ならば「記録」するのは当然だが、山野はなぜ、自作を描いてもらおうと思ったのか。記録なら、写真でもよかったのではないか。そう考えると、描いてもらうという選択そのものに、オブジェクトの制作と日常的に向き合う彼女の、手では掴(つか)めないなにかへのこだわりを見る気がするのだ。三部もその、目には見えないなにかに向かってシャッターを切っているような気がしてくる。=朝日新聞2023年9月16日掲載