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グラフィック・ノベル「バスキア」 イタリアの漫画家パオロ・パリージ「生涯を色で表現したかった」

©パオロ・パリージ/花伝社

「アートという巨大なマーケットに吸い込まれた」

――バスキアという人物を描こうと思った理由を教えてください。

 もともと、レコードやアメリカの文化に興味がありました。そこからジャズに興味が広がり、ジャズの作品で私の漫画家としてのキャリアがスタートしました。バスキアは画家として知られていますが、ニューヨークでバンドを組んでライブをしていたミュージシャンとしての一面もあります。

 ジャズの作品も『バスキア』も、黒人の文化や政治的なメッセージを描いているんです。アーティストだけに焦点をあてるのではなく、その裏の世界、お金の流れといったビジネスの面を描き、多角的な視点で人物に迫りたいと考えています。

©パオロ・パリージ/花伝社

――バスキアの生涯において、交友があったポップアートの巨匠、アンディ・ウォーホルは重要な役割を果たしています。そのウォーホルには「誰でも15分間なら有名人になれる」という有名な言葉があります。バスキアの生涯は、この言葉に象徴されているように思います。

 その通りです。この言葉に、バスキアの人生は当てはまっていると思います。アートの世界で、バスキアは一夜にしてスーパー・スターとなり、彼はそこで大金を稼ごうとしました。その結果、アートという巨大なマーケットに吸い込まれていきました。彼は地下の部屋にこもって、朝から夜中まで作品を描き続けることになるわけです。生き急ぐという結果になりました。

――パオロさんが漫画を描く上で大切にしていることはありますか?

 どの作品でも、プラスとなるメッセージを伝えたいという事です。生き方においても何かプラスとなる要素を伝えられたいいなと思いながら、人物を選んでいます。有名人の場合はものすごくたくさんの資料が存在します。その中から、プラスの要素を考えながら、描くエピソードを選んだりしています。

 作品をより面白く、よりわかりやすくするために、フィクションとして描く部分もあります。初めて言いますが、今はマイルス・デイビスについての作品を描いています。マイルス・デイビスについて調べていくと、本人自身がインタビューなどで、作り上げた嘘のエピソードをよく語っていることがわかります。彼が自分のキャラクターを作るためでしたが、彼の話を信じて、おもしろがっていた人もいたのです。このように、フィクションを加えることは物語をより面白く、読みやすいものに変えてくれます。

©パオロ・パリージ/花伝社

――パオロさんの作品はデザイン性が強いですね。

 おっしゃる通り、私は漫画を描く以外に、グラフィック・デザイナーとして広告や出版のデザインを手がけています。バスキアはもちろんですが、『コルトレーン』や『ビリー・ホリデイ』は、とりわけグラフィック・デザイナーとしての発想が強く出ており、アメリカの1960年代から70年代のジャズクラブやレコード・ジャケットのモノトーンの雰囲気を取り込んでいます。

 『バスキア』の場合は、音楽的なジャンルでいうとジャズよりもにぎやかなパンクやニューウェーブの時代でしたし、当時のニューヨークは現代アートの街になりつつあったのですから、あの時代を表現するには赤、黄、青、緑といった強い鮮やかな色が必要でした。彼の人生を色で表現したいと思い、バスキアの作品を参考にしながら描きました。色の使い方などに、グラフィック・デザイナーとしての仕事が活かされていると思います。

芸術のジャンルを交差させることができる漫画の力

――日本の漫画で影響を受けた作品はありますか?

 最初に読み始めた漫画はイタリアのもので、次にフランスの作品、アメリカの作品を読むようになりました。その後で日本の漫画を知りました。最も好きな漫画は大友克洋さんの『AKIRA』です。イタリアでも日本漫画のアイコンとして有名です。『AKIRA』は、未来の人間を語りながら、社会的、政治的なメッセージも含んでいます。未来は決して明るいわけじゃないという、人々を不安にさせるような物語であるにもかかわらず、100%エンターテイメントなのが素晴らしい作品です。

――日本の読者にメッセージをお願いします。

 日本のマンガという巨大なマーケットの中に自分もいるという事がとても嬉しく、誇りに思っています。『バスキア』は、ポップアートと漫画をミックスしたような作品です。複数の芸術のジャンルを交差させる事ができるのがマンガで、そういった実験ができるのも強みです。マンガを読みながら時間を過ごすという行為はエンターテイメントなんです。偉大なアーティスト、バスキアの人生を探っていきながら、ひとつのエンターテイメントとして楽しんでいただきたいと思っています。

パオロ・パリージさんの愛猫「マイルス」

●美術家・横尾忠則さんによる『バスキア』書評はこちら