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難局に挑む江戸期の技術官僚の凜とした姿描き出す「天を測る」 谷津矢車が薦める新刊文庫3点

  1. 『天を測る』 今野敏著 講談社文庫869円
  2. 『泳ぐ者』 青山文平著 新潮文庫781円
  3. 『化けもの 南町奉行所吟味方秘聞』 藤田芳康著 河出文庫 858円

 今回は「江戸期の役人をモチーフにした歴史時代小説」をテーマに選書。

 測量術を買われてアメリカに向かう咸臨丸に乗船、やがて幕臣として幕末期の日本を支えることになる小野友五郎を主人公にした(1)は、磨き上げた技術、技能を自らの杖にして難局に挑む技術官僚の姿を鮮やかに描き出す。技術官僚や硬骨の士との交流を描きつつ、勝海舟や福沢諭吉といった(技術官僚とは立場の異なる)政治家、学者たちも登場させ、近代日本を形作った人々の群像を重層的に描き、技術に生きる友五郎の持つ凜(りん)とした美しさを抽出している。

 時は江戸後期、自らが出世できれば家格を旗本に上げることのできる半席・徒目付(かちめつけ)の片岡直人が探偵役となって謎を解く(2)は「半席」シリーズ第二弾。ミステリファンには起こった事件の「なぜ」を解くホワイダニットとして読める。とともに外圧が高まり社会が硬直化する江戸後期を活写、その中に生きる人々の苦しみを描き出してまったく違う時代を生きるわたしたち読者に提示し、本作に示された「なぜ」の答えに深い説得力を与えている。

 盗みの罪を犯した娘、お絹を取り調べる白洲(しらす)の場を舞台にした(3)は、江戸×リーガルミステリといえる作品。微罪の事件だというのに黙秘を続けるお絹とこの事件の吟味を進める南町奉行の桃井筑前守憲蔵のやりとりが積み重ねられるうちに、お絹の宿意が明らかになる。がらりと構図が変わるどんでん返し、畳みかけるようなラストをお楽しみに。=朝日新聞2023年10月14日掲載