『源氏物語入門』
今月は来年のNHK大河ドラマに関わる2冊を取り上げる。高木和子『源氏物語入門』(岩波ジュニア新書・1056円)は、『源氏物語』の展開を辿(たど)りながら、千年も読み継がれてきたその魅力を平易に解説する。
好色・多情で一面では不誠実にしか見えない光源氏だが、権力者が一夫一妻に生きないことで救われる女性がいたという当時の現実、決定的な身分差を前提にして光源氏をめぐり意識し合う紫の上と明石の君など――『源氏物語』の背後に潜む、現代と大きく異なる当時の制度や慣習と、時代を超えて共通する人間心理を解き明かし、長く人々を魅了してきたその秘密に迫る。
★高木和子著 岩波ジュニア新書・1056円
『平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像』
『源氏物語』などの文学作品から離れると、平安貴族の姿はどのように見えるのか。倉本一宏『平安貴族とは何か 三つの日記で読む実像』(NHK出版新書・1023円)は、『御堂関白記』『権記(ごんき)』『小右記(しょうゆうき)』から平安貴族の実像を示す。
本書の白眉(はくび)は、日記原本の形態に着目することで、記主の行動や意識・人柄を浮き彫りにしている点である。特に自筆本が現存する『御堂関白記』では、表と裏の書き分けや黒塗りの記事の抹消から記主の藤原道長のその時々の心情を読み解き、興味深い。著者の長年にわたる古記録研究のエッセンスが凝縮された一冊。
★倉本一宏著 NHK出版新書・1023円 =朝日新聞2023年10月21日掲載