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堀井美香さん「聴きポジのススメ」インタビュー 聞き役に徹し、ストレスフリーに有意義な対話を

堀井美香さん=篠塚ようこ撮影

「聴き手に徹する」ことで道筋を立てる

──堀井さんがこれまでアシスタントを務めた先達MCは「聴き手としてこんな個性があった」と分析するくだりや、巻末にある阿川佐和子さんとの対談を拝読するだけでも、聴き手のスタンスは千差万別で「みんな違ってみんないい」ことがよく伝わりました。中でも読者に主体的・能動的な「聴きポジ」をオススメするのには、どういった狙いがあるのでしょうか?

 一般の方に「聴きポジ」をオススメする理由は、ストレスを感じることなくコミュニケーションを図れるから。「自分は聴き手に徹する」と役割を決めてその場に臨んだほうが楽ですし、居心地がよくなるんじゃないかな。相手の話に適切に反応していれば、受け身に陥ることもありません。会話があちこちブレずに落ち着いてコミュニケーションが図れるメリットも感じていただけると思います。

──ご著書では「どのように話を膨らませるか、場の雰囲気をコントロールするかは聴き手のハンドリング次第だから、おのずと会話の主導権を握ることになる」とおっしゃっています。話し手でなく「聴きポジ」から会話の主導権を握るメリットはどんな点にあるのでしょうか?

 話し手が何も考えず自由にしゃべっている時に「聴きポジ」でいると、「相手は何を強く伝えたいんだろう?」「この会話はどこへ向かっているんだろう?」「どんな目的でなされている会話なんだろう?」と自然と意識するようになる。したがって「聴きポジ」がおのずと道筋を立てる役割を担うことになるんですよね。何の目的もなく始まった会話であっても、自分が「聴きポジ」を取ることで有意義な時間にできるような気がするんです。

──そういった心がけで堀井さんは多様なメインMCのアシスタントを務めてこられたと思うのですが、それぞれに対してどんな接し方を心がけていらっしゃったのでしょうか?

 皆さん、本当に千差万別で。普段のコミュニケーションでも同じだと思うんですが、相手のペースに合わせ、「何を伝えたいのかな」とその人にちゃんと寄り添う。まずお話を聴いて、向かっているゴールを意識しながら接していました。

──メインMCやゲストの「話し手としての個性」を見極めるスピードと精度が、堀井さんを「プロの聴き手」たらしめているのだと思いました。一般人はどんな観察をすれば、よい聴き手になれるでしょうか?

 シャドーイングじゃないですけど、相手のスピードや間に合わせるのがいちばん重要ですよね。相手が速かったら、こちらも同じテンポで反応する。反対に聴き手が「いま感情が高まっているから、もっとクールダウンさせた方がよいコミュニケーションになる」と判断したら、自分からテンポを緩めて間を大きく取ってあげる……とか。ゴールを意識しながら、相手の感情やスピードに会話をチューニングさせるイメージですね。

 他にも「相手が話し終えてから質問する(話に問いを重ねない)」「言葉に詰まっていたら少し待って相手を尊重する」といったアクションで、その場をよい雰囲気にすることができるのではないでしょうか。

相手との共通点より「違い」を探す

──「聴きポジのススメ」には、そういった実用的なテクニックがたくさん散りばめられていました。一方で、永六輔さんが堀井さんに「1度の相づちで僕をどこかへ連れて行って」と期待したような「深める相づち」を一般の方が打つには、どうしたらよいでしょうか? 相手から思いがけない言葉を引き出したり、本人も気づかないような本質に迫ったりする「深める相づち」を打つのは難易度が高く、聴き手の人生経験やセンスが問われるような気がして、ハードルが高いんじゃないかと思うんです。

  少し、私の失敗談をさせてください。
 以前、永六輔さんとのラジオでアシスタントを務めていたときのことです。
 25歳での出産を経て、仕事復帰した20代後半。バラエティだけでなくさまざまな仕事をこなせるようになりたいと、とても気合いが入っていた時期でした。
 永さんとのラジオでも、永さんについてはもちろん、取り上げられるテーマを事前にとことんリサーチしてのぞんでいました。そして、永さんが発するすべての言葉に、すかさず相づちを打とうとしたのです。
「それは○○ですよね!」と合いの手を入れたり、「わかってる風」なリアクションを取ったり……「打てば響くアシスタント」を目指していました。相づちによって、仕事ができるアナウンサーに見られたかったんですね。自分勝手な話です。
 しかしある日、リスナーの方から私宛にお手紙をいただいたんです。アナウンスセンターでその封を切ると、こんな言葉が書いてありました。
「お願いだから、堀井さんは黙ってください。私たちは、永さんの言葉を聴きたいんです」
 ショックでもありましたが、「リスナーさんたちは永さんの言葉が聴きたい」という当たり前の事実にハッとしました。その手紙について永さんに相談すると、静かに頷いてこうおっしゃったのです。
「いま堀井さんが10回打っている相づちを1回にして、残りの9回分の時間は考えてください。そしてその1の相づちで、僕をどこかに連れていってください」

「聴きポジのススメ 会話のプロが教える聴く技術」P65-67

 いきなり本質に迫るのは難しいですよね。本の中で私は相づちについて「共感する」「問う」「深める」の3種類を段階的に使いこなしたい、とお伝えしたんですが、いわゆる「深める相づち」はいちばん最後に繰り出すもの。日常のコミュニケーションで最初から本質に迫る機会はなかなかないと思うんです。たとえばジェーン・スーに「深める相づち」を打って、芯を食った話ができるようになるまで何年かかったかわかりません。

 一方、限られた時間の中で相手から本質に迫ったコメントを引き出さなければならないインタビューであれば、すぐ「深める相づち」を打っても違和感ないのでは。話し手も「媒体の撮れ高になるようなインタビューにしなければ」という役割を引き受けながら、そこに臨んでいるわけで。でも一般の方同士でのコミュニケーションで、いきなり「あなたの哲学とは?」「大切にしている価値観は?」と聴いても、なかなか本質にたどり着けません。

 だから「共感する」「問う」のうち、どんな相づちを打つのがふさわしい会話なのか最初に見極められた方がいいですよね。相づちの手順を踏み、段階的に本質に迫っていけば……人生経験やセンスが問われるようなことにならないのではないでしょうか。

──そうお聴きして日常のコミュニケーションは安心したのですが、一方でインタビューの仕事はとても難しいと実感しました(苦笑)

 ハードル上げちゃって、ごめんなさいね(苦笑)

──それで気になったのが、堀井さんが多様な「聴きポジ」テクニックを実践する中で「相手の本質に迫れた」と実感できた時。振り返って、どんなことを心がけながら会話に臨んでいましたか?

 本にも書いたんですが……相手との共通点より「違い」を探すこと、でしょうか。その違いについて相手に熱く語ってもらった方が、「聴きポジ」を取りやすいんですよね。自分のスタンスを示しながら相手にポジティブに反論してもらうことで、いわゆる「熱い語り」を頂戴できたことがありました。たとえば聴き手として「小学校受験ってどんな感じなんだろう?」「よくわからない」という立場を取りながら、相手には「私はこんなメリットがあると感じたから、子どもを私立に入れたんだよ」と持論を引き出す、とか。

 相手との共通点を探してしまうと、同調することになりますよね。自分の話もしなければいけないし、話が前に進んでいかない。けど「違い」について聴くと相手の価値観や行動原理に迫れます。ホームランではないかもしれないけど、ヒット級にたくさんの情報は得られるんじゃないかな。

──堀井さんが打ったクリティカルヒットの具体的なエピソード、ぜひお聴きしたいです!

 うーん……そうだなぁ。「違い」を見つけて場が盛り上がったケースですと、「今度、福岡公演をやるんです」という宣伝を兼ねて行った舞台のトークイベントでしたかね。「福岡公演はどんな感じになりそうですか?」「劇場や環境が変わることへの意気込み」みたいな質問に対するご回答はどのインタビューでも網羅していると感じたので、そこからもう一歩踏み込んだお話をキャストの皆さんから引き出せたら、と考えていました。イベントに参加してくださるファンの方も「福岡でその俳優さんは何をされるんだろう?」「福岡をどうやって楽しむのかな?」とプライベートが気になるんじゃないかな、と思って。

 だから先回りして、福岡の名物についてめちゃくちゃ調べました(笑)。ゲストの経歴や宣伝対象の公演についてはもちろん、もっと踏み込んで劇場周りのグルメスポットといった“枝葉”にも目を向けてインプットしておくと、思いがけず場があたたまることがあって。イベントでは「福岡のうどんはやわらかくておいしい」という話に発展して、具体的な店名が出るほど話が盛り上がったかな。俳優さんのプライベートな表情が垣間見えるのって、ファンの方はきっとうれしいじゃないですか。逆転に貢献するようなヒットではありませんが、手堅く出塁できたかな、とは思います。

──相手にまつわるリサーチは、一般の方でも手軽にできそうですよね。

 そうそう! 皆さんが無意識にしていることでもあると思うんです。ご友人との気軽な会話であっても「今日あの子と数カ月ぶりに会うから、引っ越し先で楽しくやれているか聴いてみよう」とか、日ごろから自然と盛り上がる話題を選んでいますよね? プレゼンや人前で話す訓練とは違って「聴く練習」をする人はなかなかいないと思いますが、「相手にまつわる材料を揃えてストックしておこう」「このキーワードが出たら、ストックの中からこの話題を出して彼女の気持ちを引き出してみよう」という下準備は、聴きポジの必須アクションです。引っ越し先の彼女には、たとえば近所にある評判のよい店や最新スポットまでリサーチしておけば花丸。先々の展開を予想して、話題を膨らませ掘り下げるのに役立つかもしれませんよ。

自分で読み上げることの意義

──オーディオブックの収録についてもお聴かせください。堀井さんはこれまでニュースやナレーションをはじめ、朗読会が盛り上がった三浦綾子さんの小説「母」やジェーン・スーさんのエッセイを読むなど、いわゆる「他者の言葉」を伝えてきました。その堀井さんが、ご自身の著書を朗読することの面白さや難しさをどんな点に感じましたか?

 オーディオブックっていろんなナレーターさんや読み手がやっているんですが、「自分が書いたものを自分で読むほどいいものはないのでは」と思いました。私もジェーン・スーの「きれいになりたい気がしてきた」をオーディオブックにしましたけど、彼女自身が読んだ方が絶対にいいに決まってる!

──その心は?

 書いてある内容を誰よりも理解し腹落ちしていることが、著者による朗読の強みだと思うんです。たとえば農業の苦しみは、農家の人による詩や小説にすべて表れますよね。そういった創作物は、赤の他人によるキレイな読みより、書いた本人による朗読の方が切実に伝わる。作品ジャンルによって異なるかもしれませんが、たとえ滑舌が悪く多少聞き取りづらかったとしても、自分の言葉を自分で読み上げることの意義を感じました。

 ジェーン・スーの本を読んだ時、これまでの関係値や毎週ポッドキャストの収録で会っているから彼女のことはすごくわかっているし、エッセイに書かれている内容も「この出来事、スーちゃんならこう受け取るだろうな」と寄り添える部分はありました。でも、あくまでもエッセイはジェーン・スーの言葉であって、私の言葉ではないんですよね。そこには圧倒的な違いがあります。

──「著者による朗読が理想」の一方で、オーディオブックの利用者には限られた時間の中で“ながら聞き”しながら効率よく情報をインプットしたい方もいらっしゃいますよね。そういった利用者の期待に応えるために、読み手の堀井さんはどんな創意工夫をしていらっしゃいますか?

 しっとりした朗読やナレーションとは異なり、空白を持たせたり感情を持たせたりすることはしませんね。耳に入れた瞬間に内容がスッと入るよう、アナウンサーのスキルを駆使しながらキーワードや重要なポイントを外さずに読んでいく。うねらず、自分の色をつけず、空白はたっぷり残して。規定演技は100点満点で、自由演技はしないイメージですかね。

──TBSラジオ「安住紳一郎の日曜天国」を聴いていたら、安住アナが「再生速度を変えても、リスナーの皆さんに心地よく聴いていただける読みのスピードを意識している」とおっしゃっていました。倍速再生の功罪が話題に挙がることもある昨今、オーディオブックの収録においても意識する場面はありましたか?

 大いにありますね。倍速再生する方もいると想定して、しっかり聞き取れる発音を心がけています。編集スタッフさんのお力をお借りしながらではありますが、言葉がストレートに届くよう明確に。オーディオブックの読み手は、皆さん意識しているんじゃないかな。

【好書好日の記事から】

>ジェーン・スー&堀井美香「OVER THE SUN 公式互助会本」インタビュー “おばさん像”を無視したおしゃべりの先に