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上白石萌音さん「いろいろ」オーディオブック版インタビュー 20代前半の自分に再会した「酸っぱさ」

上白石萌音さん=篠塚ようこ撮影

「もう一度この本と何かができる」2割と

――まずはオーディオブック化のお話をいただいたときの率直な思いを教えてください。

 まさかオーディオブックになるとは思っていませんでした。私の中で『いろいろ』についてはひと段落した気持ちでいたので、またもう一度この本と何かができるという、純粋にうれしい気持ちが2割、あと8割は嫌だなーって(笑)

――やっぱり恥ずかしい気持ちが強いですか。

 めっちゃ恥ずかしいです。『いろいろ』を書いたのが4年前で、20代前半って考え方や価値観がどんどん変わる時期。20代に入ったばかりの自分の文章は、そうした変化をリアルタイムに実感しながら書いていただけに、甘酸っぱいとかじゃなくて、もうただただ酸っぱい。読むだけでも恥ずかしいのに、声にしなきゃいけないというのが、もう罰ゲームのようでした(笑)。小学校で自分が書いた作文を読み上げることって、あったじゃないですか。あれの究極版みたいな感じです。

――エッセイ自体、そのとき思ったことをありのままに、包み隠さず綴られていたので、読み返すだけでもその当時にぐっと引き戻されますよね。

 そうなんです。当時はなるべくかっこつけないで書いたつもりが、今読むと十分かっこつけていたり、美化していたりするなと感じる部分もあって、すごく恥ずかしいんですよね。でも、これだけ恥ずかしいってことは、そんなにあの頃と今の自分が変わっていないことの表れでもあるのかなとも思います。

――というと?

 自分自身があの頃と全く違っていれば、もはや別物として「かわいいな」と思えるんですけど、変わってないからこそ「うわー! やめて、やめて」っていう羞恥心があるんだろうな、と。

――エッセイを書いてから4年くらいしか経っていないというところが絶妙なのかもしれないですね。多分10年くらい経ってくると、熟成されて甘酸っぱくなりそうです。

 はい。多分甘みが増すと思います。今はまだ、ただただ酸っぱい時間でした。

気を遣わず読めた不思議な体験

――これまでナレーションのお仕事もたくさんされています。自分で書いたものを朗読するのと、ナレーションのお仕事では、恥ずかしさ以外にどんな違いがありましたか。

 ナレーションの仕事では、作家さんやディレクターさんが書かれた文章を読むので、書かれた方の意図や伝えたいことを意識しながら、自分の解釈を載せすぎないように調整をしています。でも、今回は自分で書いた文章なので、何の気を使うこともなく、遠慮もなく読めるという意味で、とても伸び伸びと朗読することができて不思議な体験でした。ただ、読みにくいところは結構あって、「読みにくいなー」って自分に文句を言いながら読んでいましたね。

――でも、収録ではほとんど1テイクでOKが出たそうですね。

 そうですね、スムーズでした。家でたくさん練習をしたんです(笑)。

――エッセイの「読み上げる」に、もともと音読は好きだと書かれています。中学生のころは目立ちたくなくて国語の授業で思いっきり読み上げることができなかったそうですが、今回は思う存分、朗読できた感じでしょうか。

 はい。でも、やっぱり自分が書いたものを本人が読むという時点で、めちゃくちゃ個性が載っているので、それ以上のことはできるだけしたくなくて。文字と音の間に差がないよう、どこか無機質にというか、なるべく自分の色や個性を抜いて引き算するような形で読もうと意識していました。

――収録されている50編のエッセイについて、朗読することで、書いたときには気づかなかった新たな良さや発見、印象の変化などはありましたか。

 そんなに大きな変化はなかったんですけど、改めて朗読してみて、声に出して読みやすい文章だったなとは思いました。さっき「読みにくい」って言いましたけど、それは言葉選びの部分で、何でこんな舌がちぎれそうになるくらい言いにくい言葉を使ったんだろうといった読みにくさだったんですよね。文章としては、わりと短くて読みやすい。ひねくり回していない文章にできたのかなと、声に出してみて思いました。それはもう担当編集さんの手解きのおかげなんです。

 読んだときに書いた方の声が聞こえてくるような文章がすごく好きなんです。たとえば、黒柳徹子さんが書かれた『窓際のトットちゃん』って、徹子さんの声で再生されません? それはご本人の声の持つ力や、その声を私たちがよく知っているからというのもあるんですけど、そういう書き手の方の声が立ち上がってくるような文章をちょっと目指してみたというのもあって、息継ぎができないような文章じゃなかったのは当時の自分に感謝だなとは思いました。

今ハマっている漫画

――エッセイ「始める」では、2021年の新年の目標に漫画を掲げていました。それまであまり漫画を読んでいなかったそうですが、あれから漫画は読んでいますか。

 はい、読んでいます。「きっと好きだと思う」と人から薦められて、いまハマっているのが『スキップとローファー』。もう最高です!

――過疎地から東京の進学校に入学した女子高生が主人公の青春漫画ですね。読むとキュンキュンしますよね。

 久々にキュンに溺れていますね。キュンキュンもするし、主人公の美津未ちゃんほどピュアじゃなかったですけど、私も高校で田舎から出てきたので、美津未ちゃんの気持ちがよくわかるんです。それに、真理が飛び出すじゃないですか。こんなにシンプルでまっすぐで、そして優しい世界っていいなって思います。キラーワードやキラーシーンが結構あって、その度にハッとする感覚が楽しすぎて、読み終わるのが嫌ですごくゆっくり読んでいます。

自作の小説を朗読「大変というより…」

――オーディオブックではエッセイだけでなく、短編小説「ほどける」も朗読されています。

 これがもう嫌でしたね。

――いちばん大変でしたか。

 いや、大変というより、嫌でしたね(笑)

――嫌っていうのは、どうして?

 多分セリフですね。地の文はまだいいんですけど、小説の中で登場人物がしゃべるセリフを読むのがすごく恥ずかしくて。

――ふだん演じてらっしゃるから、ちょっと意外です。

 役者の仕事ではプロが書いたセリフなので、素人が書いたセリフとは違うんですよね。やっぱり脚本家さんのすごさを感じました。

――3章から成る小説は、章ごとに語り手が変わります。1章は高校生の娘、2章はその母、3章は神の視点で描かれていますが、やっぱり各章で違いを出しながら朗読されたんでしょうか。

 恥ずかしすぎてあんまり覚えてないんですが、声の感じは語り手によって少し変えたのかな。母、娘、兄の3人に加えて、それぞれの同級生や同僚も出てくるので、ちょっとずつ声は変えた方が耳で聞くにはわかりやすいので変えたんですけど、変えるのが本当に恥ずかしかった……!

――1人で何役もやっているという感じですもんね。

 はい。しかも自分が書いた文章なので、頑張って工夫をしたのがわかる分、本当にもう「早く終われー!」と思って、頑張りました。

――そこはある意味、このオーディオブックの聞きどころの一つですね。

 そうなっちゃっていると思います。ぜひ聞いてほしいです。本当に頑張りました。

朗読したくて練習している作品

――読書家で知られる萌音さんですが、これまで耳からする読書の経験は?

 実はまだあんまり経験がないんです。気になっている作品などはあるんですけど、ふつうに本を読んでしまうので、まだ足を踏み入れていない領域です。

――今回はご自身の作品でしたけど、もし次にオーディオブックの朗読の依頼がきたら、どんな作品や作家さんのものをやってみたいですか。

 くどうれいんさんのエッセイが大好きなので、れいんさんの本を朗読してみたいです。何なら、もう練習しています。

――え!?(笑) ふだんから家で読書するときに声に出して音読する方なんですか。

 それはあんまりしないですね。ただ、れいんさんのデビュー作『わたしを空腹にしないほうがいい』はエッセイのタイトルが俳句になっていて、声に出して読みたくなるんですよ。それぞれの俳句を読み上げてから本文に入るということをよくしています。この本は結構朗読しがちなので、準備はできています!

――もう練習済みっていうことなんですね。いつか萌音さんの朗読で聞けるのを楽しみにしています!

 どなたか、関係者のみなさま、どうかよろしくお願いします。

インタビューを音声でも!

 好書好日編集部がお送りするポッドキャスト「本好きの昼休み」で、上白石萌音さんのインタビューを配信します。12月12日午後5時配信予定です。

Spotify https://spoti.fi/3AwSzGI
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