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「基地国家の誕生」書評 参戦国に劣らなかった人的貢献

評者: 前田健太郎 / 朝⽇新聞掲載:2023年12月09日
基地国家の誕生 朝鮮戦争と日本・アメリカ 著者:南 基正 出版社:東京堂出版 ジャンル:外交・国際関係

ISBN: 9784490210903
発売⽇: 2023/10/12
サイズ: 22cm/478p

「基地国家の誕生」 [著]南基正

 戦後日本は、憲法9条で戦争放棄を掲げる一方、全国に米軍基地を受け入れてきた。「平和国家」の理念とは裏腹に、現実は「基地国家」だったのだ。本書では、韓国における日本政治研究の第一人者が、日本が朝鮮戦争を境に基地国家へと変貌(へんぼう)した過程を描く。
 北朝鮮が開戦する際、日本の動向は重要な判断材料となった。その先制攻撃の動機の一つは、日本が韓国と連携する前に決着をつけることだった。果たして、米軍を中心とする国連軍が参戦すると、日本は後方基地として、韓国軍に訓練場を提供し、軍需工場を再稼働し、船員を海上輸送に送り込むなど、正式な参戦国にも劣らぬ人的貢献を行う。
 こうして基地国家化が進む中で、左右の対抗運動が生じた。右翼や旧軍人の間では、大日本帝国の復活を夢見て正規軍の設立を目指す動きが生じる。共産党は武装闘争に転じ、中でも在日朝鮮人党員は祖国防衛のために立ち上がる。この両者を退けたのが吉田茂の日米安保路線であり、それを世論も追認した。
 本書は、ここで日本が戦前の「国防国家」に逆戻りせず、基地国家に留(とど)まったからこそ、朝鮮戦争は「休戦態勢」に至ったと指摘する。日本が再軍備して参戦していれば、戦火が拡大する可能性もあった。その観点から見れば、近年の日本における「普通の国」に向けた軍備拡大は、この休戦後の東アジアの国際秩序を揺るがす可能性もある。
 これほど深い朝鮮戦争と日本の関わりを論じる研究者は、日本の学界には少ない。それは学問分野の編成にも一因がある。従来、戦後日本政治の研究は、欧米諸国との比較を重視する一方で、東アジアを視野の外に置いてきた。その結果、日本と朝鮮半島の歴史的な繫(つな)がりは見えにくくなり、朝鮮戦争も「朝鮮特需」といった形で断片的に記憶されてきた。だが、この慣行は変わるべき時期だろう。本書の翻訳が、その一つの契機となることを願う。
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ナム・ギジョン 1964年生まれ。ソウル大日本研究所教授、同所長。日本政治や外交、東アジア国際政治が専門。