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滝沢カレンの「ながいながいペンギンの話」の一歩先へ 南極から北極へ、波は兄弟を一瞬で運び去った

撮影:斎藤卓行

これはむかしむかしの2匹のペンギン兄弟のちょっと変わったお話です。

あるところに、アデリーペンギンのルルとキキという名前の兄弟がいました。

ふたりはとっても仲良し。

兄のルルがどこに行こうが弟のキキは菜箸みたいにくっついて行った。

ルルとキキのお母さんは、すぐに冒険開始してしまう行き先知らずの強行さに毎度心配で、趣味で始めた習い事の小股エアロビもいつも集中できなかった。

そんな仲良し兄弟は今日も次の冒険計画に心をむしゃくしゃに遊ばれていた。

「なぁ、キキ!南極の海を知ってるかい?」

「ナンキョク??ん〜お父さんから聞いたことあるけど、どんな海なのかな?僕よくわからないなあ」

ルルは氷部屋の中で、キキに必死で南極の海を絵に書いて教えてみせた。

「南極は僕たちみたいなペンギンがたくさんいるんだぞ。それに海は冷たくって広くて気持ちいいんだ!今いるこの海とは比べ物にならないほど楽しいことが海に詰まっているらしい!」

「そんな海があるの?いいな〜。兄ちゃんはなんで知ってるの?」

「この前、親戚のグイサおじさんが教えてくれたんだよ。南極の海の話を。おじさんはむかーし南極の海を冒険していたらしい!そこでたくさんの生き物と出会って友達もたくさん作ったらしいよ。」

「じゃあ僕たちも行ったら友達たくさんできるのかな?遠いのかな?」

「遠いみたいだよ。でも遠いからこそ冒険の意味があるもんさ。僕たちはこの辺りばっかり冒険してるだけだからね。いい加減自慢できる冒険家になりたいよ。」

「遠いなら少し不安だな。お母さんもまた心配するよ。」

「ほんとにキキは怖がりだなあ。誰の弟だと思ってんだ?!そんなんじゃ立派なアデリーペンギンにはなれないぞ!」

「えぇ、やだよ兄ちゃん。僕は怖がってなんかないよ!」
こうしていつもキキはルルの子分的な弟への成長を遂げていく。

ふたりは星空に背を向かし夜中(よるじゅう)使って楽しいたのしい冒険計画を話した。

次の朝、キキとルルのお母さんが起こしにやってきた。

「キキー、ルルー。朝よ、おきて〜。
あれ?キキ?ルル?」

お母さんは、空気と共にキキとルルが部屋にいないことに気付いた。

「やだもう〜。また朝っぱらからどっかに行っちゃうんだからぁ〜。もうー!どうしよう。どこ行っちゃったのかしら。あぁもう心配だわ。」

お母さんは早口交じりに頭によぎった言葉を全放出していく。

左右のパタパタしがいのある手をわんさか動かして心配を明らかにする。

「パパー!!ルルとキキがまたいないのよ〜。どうしよう。すぐ帰ってくるといいんだけど。ほんとに何も言わずに行っちゃうんだから。」

「大丈夫だよ。きっとすぐ腹を空かせただの、眠くなっただので帰ってくるさ。冒険愛を尊重してあげようじゃないか。」

ルルとキキのお父さんはお母さんとは打って変わってあまりにも希望を信じる体質だ。

その横で両手に逞しい心配を乗せパタパタさせるお母さん。

この景色は、ズバリ日常茶飯事だ。

この頃、ルルとキキはというと...

ぷかぷかぷかと、南極の海に向かって泳いでいた。

「キキー。気持ちいいなぁ。朝からこんなに優しい海波に踊らされて南極の海に向かうなんて。最高の冒険家人生じゃないか」

ルルは内面から夢に満ちながら樽顔負けのように揺られていた。

「兄ちゃん〜、気持ちいいね。でも母さんや父さんが心配しているかもしれないよ。早めに帰ろうね〜」

キキは性格にうずくまる心配性がしっかり母親から譲られていた。

2匹は、太陽を照明に豊かに南極の海へと泳ぎを進めていった。

「兄ちゃん〜僕たちどのくらい泳いだかな」

「結構進んだ気がするぞー。だってキキ見てごらん!こっちの波はだいぶ強気に踊っているだろ?」

「確かに、僕気づかなかったよ。こりゃすごい距離進んだんじゃないのかな?!」

「だね!南極の海でたくさんの仲間作ったっておじさん言っていたけどほんとにいるのかな?」

兄弟は周りを見渡しながら仲間らしきものがいるかを探した。

すっかり太陽は仕事を終えたように海の中にまた沈んでいくようにいなくなっていった。

太陽が帰れば、あたりは真っ暗そのものだ。

「兄ちゃん。暗くなってきたね。少し怖いよ。そろそろ帰ろうよ」

キキは波の怪物具合や、辺りの漆黒感に身を真ん中に寄せて怖がり始めた。

「キキー何言ってるんだ!僕たちは冒険兄弟だろ!こんなとこで帰ったりなんかしたら勿体無いにも程があるよ!」

「えー兄ちゃん。。」

ルルとキキはそんな兄弟特有の言い合いをしているときだった。

急に食べるように波がルルとキキを襲ってきたのだ。

ものすごい唸り音をたてながらルルとキキを平気で包み2匹を海底へと丸め込んでいった。

あまりの波の豪快さにルルもキキもただただされるがままとなる。

海の中で、2匹は離れないようしっかり腕を握りしめ合ったおかげで離れ離れにならずに済んだ。

「キキ大丈夫か?」

「兄ちゃん、大丈夫。ずいぶんそこの方まで来ちゃったようだね。こっちも真っ暗だ。」

外の景色とあまり変わらない漆黒の景色に目も慣れてくる2匹。

すると暗闇かと思っていた景色から一転。

ルルとキキの立っていた地面が揺れ始めた。

「なんだなんだ?!地割れでも始まるのか?!」

「兄ちゃん怖いよなんだこの揺れ!」

2匹があたふたしていると正体が顔を見せた。

「君たち、だぁれ?」

揺れと共に出てきたのは、巨大な目を見開きながらルルとキキに話しかけてきたのはおっきなおっきなクジラだった。

「うわぁー!!!びっくりしたあ!!」

「わぁ、クジラの頭に僕たちは立っていたんだ。ごめんなさい」

クルリと向きを変えた巨大なクジラはルルたちをみながら、にっこり笑った。

「いいよいいよ。重くもなんともないんだから」

と励ましを返した。

「初めまして。僕たちはアデリーペンギンのルルとキキです。兄弟で冒険家なんだ!」

とルルが一丁前に自己紹介をする。

「え?なんだって?アデリーペンギンってことはまさか、南極の海から来たのかい?!??ここは北極海だぞ!!一体君たちはどれだけ泳いだんだ!」

ルルとキキは顔を合わせて目をカチンコチンに固めた。

「なななにをいってるんだよ。僕たちは南極の海っていう場所を目指してここまできたんだ!北極海なわけないよ!」

「君たちこそ何を言ってるんだ?ここは北極も北極さ。海底800mだから太陽も陸も見えないだろうけど、陸を見たら氷の北極さ。」

ルルとキキはとんでもない場所まで来たこと、
そしてそもそも自分たちの住む周りが南極の海だったことをゆっくり頭の中で理解していった。

「南極から北極だなんて...僕たちはおうちと真反対にいまいるってこと?!信じられないよ、兄ちゃん。なんでだ?太陽は一回しか見てないはずだよ!」

「アデリーペンギンだったら南極にしかいないからな。君たちは自分がどこから来たのかも知らずに冒険家なのか?笑っちゃうね。」

巨大クジラは顔を全体的に緩めながら笑い出した。

「でも南極から北極だなんてこんな僕たちだけで移動できますか?」

ルルが急にまとを得た質問をした。

「まぁ無理だね。南極から北極は距離で2万キロ近くある。海の中を泳いだらきっと君たちのペースなんかじゃ8年はかかるだろうね。何かの魔法でも使わない限り」

「魔法だなんて使っちゃいないよ!!
僕たちは今日の朝家を出て夜のうちに嵐みたいな波に襲われて、今なんだから」

キキが一生懸命に説明した。

「嵐みたいな波?」

巨大クジラは顔に真剣味をもたらして考えた。

「嵐みたいな波がもしかしたら南と北を行き来する特急海道にでもなっていたのか。」

「そんな道があるの?」

「僕はシロナガスクジラだ。もう生きて89年くらいは経つから、それくらいの噂や伝説たくさん耳にしてきたよ。」

「わぁー89歳だなんてすごい!僕たちはまだ5歳と4歳だから全然周りを知らなかったんだな」

ルルがキキを見つめながら、兄さんとしての恥を痛感していった。

「仕方ないよ。長く生きていれば知る量がおおくて当然さ。この辺りでもよく疾走する魚が多くてね。僕の親戚もある日突然北極海から姿を消した。みんな冒険の航海に出たと思っているけれど、特急海道に入ってしまったのかもしれないね」

「特急海道にまた行けばおうちに帰れますか?!」

「残念だけど、ここは景色や姿に差を見せない海の中だ。特急海道がどこにあるか知る者はいない。たまたま行きつきゃ別だが。まず探して見つかるのは途方も暮れる体力と時間になるだろう。」

ルルとキキは今にも泣き出しそうになる。

「じゃあ、僕たちはもう母さんや父さんには会えないの?」

「冒険兄弟なんだろ?これくらいの未来を予想しておかなきゃダメじゃないか。ハハハ。でも一つだけ方法がある。」

シロナガスクジラはギロりとルルとキキの目を見て話した。

「僕がおうちまで連れて行ってあげる方法だ。2万キロならまあ今から1年ちょっとでつくだろう。移動距離には自信があるもんでね。人生最後の冒険を南極にしてみるかね。なんだか君たちを見ていたら冒険魂に火がついたよ」

シロナガスクジラは一年のあいだにものすごい距離を渡る。

近年はめっきり歳を重ねて北極海周りを彷徨いていただけのシロナガスクジラだったのだ。

ルルとキキは抱きしめ合いながら喜んだ。

「やった、キキ!どうにか、帰れる。一年かかるけど、僕たち2人で帰るよりきっとずっと早いよ!」

そして冒険兄弟に加わり、シロナガスクジラも冒険者に仲間入りした。

ここからものすごく長い長い旅が始まる。

イラスト:岡田千晶

ルルとキキは、シロナガスクジラの背中に捕まり様々な海の景色を通過した。

時には魚群と遊んだり、時にはヒトデとダンスしたり、時には凶暴なサメから必死に隠れたり。

景色は変わらずも、海の中にはたくさんのワクワクとドキドキも泳いでいる。

一ヶ月に一度シロナガスクジラは休憩をとった。
その時はルルとキキがシロナガスクジラの口の中を洗ってあげたり、ヒレをマッサージしたりしてリラックスさせた。

「あとどれくらいでつくかな?」

キキは質問する。

「さぁな。まだまだかかると思っときなさい。」

「はーい」

荒い波の日も穏やかな日も、シロナガスクジラは一定のスピードで前に進むことをやめなかった。

そしてその日は海の中を泳いでいるはずなのに太陽の光を頭から感じた。

「キキ!見上げてごらん!ほら、太陽だ!」

「わぁ兄ちゃん、久しぶりの光だ!上がってみよう!」

シロナガスクジラが休憩中2人は、海水から顔を出してみた。

するとそこは見覚えのある、アデリーペンギンが住む町が見えた。

「キキ!!僕らの家だ!!ついたんだよ!やったーやったーやったー!!」

「ほんとだ!僕たちの家だ!嬉しいよ兄ちゃん。」

2匹は腕を最大限に振り回しながら喜んだ。

「よし!シロナガスクジラさんに伝えなきゃ!」

そういうと2匹は一目散にシロナガスクジラに報告しに海中へ戻って行った。

すると、休憩していたはずのシロナガスクジラはどこにも見当たらない。

「あれ?ここに確かにいたよね?」

「うん。」

2匹は当たりを探したがどこにもあんな巨大なクジラは見つからなかった。

2匹は日が暮れるまで、家は目の前だというのにシロナガスクジラを探した。

それでももう2度とシロナガスクジラが2匹の前に現れることはなかった。

2匹は悲しみながらも、家についた幸せを胸に抱きながら帰った。

「母さん!父さん!ただいま!そして本当に本当にごめんなさい!!!」

ルルとキキが思いっきり叱られるだろうと思いながら謝った。

「もうー!また何も言わずに出て行っちゃうんだからぁ。心配したわよほんとに。でもちゃんと帰って安心したわぁ。あぁよかったよかった。お腹は?すいてるー?」

「??」

2匹は様子に溶け込めない。

だって1年も月日は過ぎているはずなのにいつものただの心配性のお母さんの反応だ。

「おーおかえり。母さん朝からずっと心配してだぞ!あんまり母さんに心配かけずに遊びなさい!ほら、飯食うぞ!」

お父さんにいたっては、心配すらしていない。

ルルとキキは顔を見合わせ、お互いの皮膚という皮膚を摘みあった。

「痛いね。」

「うん、痛い。現実に間違いない」

2匹だけが知るこの不思議な時間。

「今日の冒険は僕たちだけの秘密にしよう」

「うん。兄ちゃん、また冒険しようね。」

そうして2匹のながいながい秘密の冒険となった。

後に2匹は、本当の冒険家となり
命の恩クジラであるシロナガスクジラの生息地専門冒険家として海の中を泳ぎまわっている。

そしてあの日以降、特急海道には未だに巡り会えていない。

(編集部より)本当はこんな物語です!

 南極に住むペンギンの兄弟ルルとキキは冒険が大好き。よちよち歩きの頃から好奇心が旺盛で、トウゾクカモメやシャチに食べられそうになったり、流氷に流されたり、人間に連れて行かれそうになったりしながら、見知らぬ場所へ行動範囲を広げてたくましく成長していきます。作者のいぬいとみこさんは、のちにアニメ映画化された『北極のムーシカミーシカ』でも知られる人。動物が主人公の子ども向けファンタジーでありながら、肉食獣や人間に狙われる現実的な危機を乗り越えていくストーリーが共通しています。

『ながいながいペンギンの話』が出版された1957年は、日本の戦後初の南極観測が始まった翌年でした。南極が遠い遠い場所だった時代に想像を膨らませて書かれた物語は、60年以上経った今も読み継がれるロングセラーです。滝沢さんバージョンは、原作の続編とも言えそうなストーリーですが、一瞬にして南極と北極を行き来してしまう距離感覚は、世界の情報が瞬時に手に入る現代ならではかもしれません。