1. HOME
  2. インタビュー
  3. 嶋津輝さん「襷がけの二人」 直木賞次点の初長編小説、ユーモア漂う女性2人の連帯

嶋津輝さん「襷がけの二人」 直木賞次点の初長編小説、ユーモア漂う女性2人の連帯

「襷がけの二人」の嶋津輝さん

 作家、嶋津輝さんが初めて書いた長編小説「襷(たすき)がけの二人」(文芸春秋)は、近現代を舞台に2人の女性の不思議な縁を描いたバディもの。先ごろ発表された第170回直木賞の候補に選ばれ、多くの選考委員から支持を集めたが、惜しくも次点となった。

 嶋津さんが小説を書き始めたのは41歳。当時勤めていた投資会社の仕事が2008年のリーマン・ショックで激減し、習い事でもしようかと小説教室に通い始めた。「頭の中でいつも文章が流れている感覚があって、これを文字にすると小説になるかもしれないと思っていたんです」

 16年、「姉といもうと」でオール読物新人賞を受賞。ラブホテルの受付で働く右手の指がない妹と幸田文の小説「流れる」に憧れて家政婦をする姉の日常を描いた小品で、以降も短編がしばしばアンソロジーに選ばれた。初めての作品集「スナック墓場」(文庫版は「駐車場のねこ」に改題)が出たのは50歳のときだった。

 「襷がけの二人」は大正末期から戦後まもなくの東京・下町が舞台。戦争を境に、良家の嫁と元芸者の女中頭が、住み込みの女中と三味線の師匠に立場を変える。夫婦間や近所付き合いで起きる感情のささくれを、2人がゆるやかに乗り越えていく姿をユーモア漂う筆致で描き、直木賞選考会で「戦前の女性なのに、新しい女性の連帯を書いている」と評価された。

 読み手の郷愁を誘う筆運びは、過去の読書体験が血肉となっている。大学時代に全集を読破した幸田文、繰り返し読んだ有吉佐和子の花柳界小説、向田邦子の随筆……。彼女たちが生きた時代の物語を、いつかは書きたいと思っていた。

 「私の読書の楽しみに、人の生活をのぞき見たいという欲求があります。市井の人々の普通にみえるけど、ちょっと普通じゃないところをすくいとるような物語をこれからも書いていきたい」(野波健祐)=朝日新聞2024年1月31日掲載