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「疲労とはなにか」書評 体内の痕跡から正体あぶり出す

評者: 石原安野 / 朝⽇新聞掲載:2024年02月17日
疲労とはなにか すべてはウイルスが知っていた (ブルーバックス) 著者:近藤 一博 出版社:講談社 ジャンル:新書・選書・ブックレット

ISBN: 9784065343852
発売⽇: 2023/12/14
サイズ: 18cm/254p

「疲労とはなにか」 [著]近藤一博

 疲れたー。お疲れ様! よくある職場の一コマ。日本人にとってはかくも身近な疲労であるが、欧米では疲れるまで働けば効率が落ちるが故、自己管理ができていない人間と思われるという。さてさて。
 疲れてもなお働くことを美徳とするのも、疲れる前に休んでいるから疲れはないとするのも、どうも腑(ふ)に落ちない。もしかするとそれは、自分の体内で起きている疲労のメカニズムを理解できていないからなのかもしれない。
 “疲労”が人類を生き延びさせるために必要な機能であるならば、体の中で疲労に相当する反応が起きたとき、それを何らかの方法で脳に伝えることで、休むタイミングを教えてくれているのであろう。
 しかし、疲労の感覚は、実際の疲労を反映していないことがある。感覚に頼らず体内の疲労を測定することは可能なのだろうか。名探偵は客人が帰った後の部屋をみて誰が来ていたかを当てることができるが、本書に登場する研究者も、わずかな痕跡を見つけることで疲労の正体をあぶり出していく。鍵となる痕跡は、体内に潜伏し人類と共存するウイルスにあった。
 それでも、いわゆる疲労であれば、仕事による疲労でも風邪の症状による疲労でも、適切なタイミングで十分に休めば収まる。しかし、いくら休んでも疲労が続くとしたら……。
 それは病気である。そのような長期間の疲労をもたらす病には、例えば慢性疲労症候群やうつ病があり、近年、新型コロナ後遺症が加わった。これら異なる病気の共通点が、長期にわたり続く疲労症状なのだ。一つの病気の理解が、同様の症状を持つ他の病気の理解へと結ばれていく。
 疲労が長期にわたり癒えないのはなぜなのか。本書で研究者の試行錯誤を追体験しながら、一緒に考えていただきたい。我々人類はなぜ、疲労やうつ病と共に生きることになったのだろう、という疑問と共に。
    ◇
こんどう・かずひろ 1958年生まれ。東京慈恵会医科大教授。共著に『うつ病は心の弱さが原因ではない』など。